あたしの願いは
いきなり願いを言えって言われても。
「え……世界平和とか、そういうこと? こんなにたくさんの神様の力を借りて実現するような大きなことなんて想像がつかないんだけど」
「ナフュールといいアカリといい欲がないな。妾が尋ねておるのはアカリ個人としての願いじゃ。ちなみにナフュールはアカリに会うことを願ったゆえ、今ここにおるのだがな」
思わず見上げたら、神官長様が頬を赤く染めていた。眉がちょっと下がって恥ずかしそう。神官長様は、少し考えた後ゆっくりと口を開く。
「アカリ、私も女神様よりお言葉を賜ったのです。欲するものがあるのは悪いことではないと。自らの心と対話せよと」
「神官長様……」
「私は、ただただアカリに会いたかった。ですからひたすらにそう願いました。こうあればいい、と思うことを素直に願ってよいのですよ」
いつも通りの穏やかな口調で仰るけれど、内容が嬉しすぎる……! 人目さえなければもう一回ぎゅっと抱き着きたいくらいだ。我慢するけど。
でも、願いかぁ。
このところ一番心配だった神官長様たちは無事に過ごしていらっしゃるようだし、信じられないことに神官長様とも会えて、さらに告白までして貰っちゃったし。
しかもこれからは一緒にいられるから別に問題は……っていやいや、あるじゃん!
めちゃめちゃ叶えてほしい願いがあるじゃん!
「エリュンヒルダ様、決めました!」
「うむ、願いを口にするが良い」
「神官長様と一緒にエリュトゥールに行っても、地球に自由に行き来したいんです。本当はこのお店だって続けたい……これって、可能?」
神官長様と一緒にエリュトゥールに行くって決めたけれど、やっぱり本当はお父さんやお母さんに二度と会えないなんて悲しい。このお店だって常連さんたちに支えられて続けてきたんだもの。叶うことならば、今まで築いてきたこの暮らしも手放さずにすめばそれが一番嬉しい。
そんな都合のいいことできるのかな……とは思いつつ、ダメ元で言ってはみたけれど。
エリュンヒルダ様の口角は優雅に弧を描き、自信ありげに「無論だ」と告げる。
「常ならば為せぬ業ではあるが……これだけの神が集うておるのだ。できぬことではあるまいよ」
頼もしい言葉とともに、店の中が眩い虹色の光に包まれた。暖かい光の奔流がめまぐるしく店中を駆け回る勢いがすごくって、ちょっと怖くなったあたしは思わず神官長様にすがりついてしまった。
これまでこんなにも強い神気を感じたことなんてない。あたしの願いは、自分が思っているよりも多くの力を必要とする内容だったのかもしれない。
あたしの願いを叶えるために、たくさんの神様たちが力を貸してくれている。そう思うとありがたくて申し訳なくて、あたしは名前も知らない神様たちに、何度も何度も「ありがとう」と叫んでいた。




