神が施されてはならぬ
エリュンヒルダ様が同じような問答を神官長様にも施していくけれど、あたしよりも遥かに優しくて人々への慈愛が強い神官長様が否やを言うはずがない。異界の人だろうが、なんなら動物や魔物や無機物だって、助けが必要だろうと思えば助けるお方だ。
二人の間で交わされる問答をききながら、なんでいちいち言質をとるのかなぁ、なんてあたしはぼんやりと考えていた。
「さて、聞こえたであろう。妾の愛し子は変わらずそなたらへの助力を惜しまぬ。そなたらも礼を尽くせ。神だからこそ、施しを受ける身であってはならぬ」
エリュンヒルダ様が急に大きな声で問うた。明らかに視線があたしや神官長様ではないところに向いたから、あたしも自然とエリュンヒルダ様の視線の先を追う。そして、視線がたどり着いたのは一番奥の四人掛けの席。
そこには色とりどりの眩く光る球体がふわふわと浮いている。なんだあれ。なんでかわからないけど、神々しいオーラをびんびんに感じるんだけど。
「あの光は……もしや尊いお方なのでは」
神官長様は眩しそうに眼をすがめ、膝を折って光へ向かって頭を垂れた。それを見て、あたしも慌てて神官長様に準じる。
「あれらは異界の神よ。じゃが礼を尽くすべきはあちらの方、お前たちは堂々と立っておればよい」
促されてあたしと神官長様はおずおずと立ち上がる。よいって言われても光から神気をビシビシ感じるから、なんだかとっても落ち着かないんだけど。
「アカリ、お前のもとに時折、異界より導きを求めるものが現れておったろう?」
「はい、ちょくちょく来てましたけど」
「あの神たちは、これまでお前が助けてきた異界を統べるものたちでな」
「え……?」
「その世界において大きな転換期を迎えた時、その鍵を握る人物が導きを得るためにここを訪れていたのじゃ。統べる世界への関与は限られる。まだ若いあれらの神は、己が世界を良き方向へと導くためにお前の導きの力を借り、また今後もその力を頼みにしておる」
確かに異世界からくる人達って抱えてる問題の規模が違うなぁとは思ってたけど、まさかそんな大層な事だったとは。神様も大変なんだなぁと思うとともに、神様に頼られても、あたしごときで何とかなるようなもんなんだろうかと思うと地味に心配になってきた。
でも、もう助けるって言っちゃったしなぁ。
ちらりと神官長様を見上げたら、極上の優しい笑みをくださった。
うわぁ、こんな笑顔見ちゃったら、なんだかもうなんでもできる気がするよ。
「アカリ、ナフュール。見返りを求めず施すは二人の美徳だが、神が施されてはならぬ。さあ、願いを口にするがいい。妾の力だけでは為せぬ業も、数多の神の力を得れば如何様にもできようぞ」




