もう離したくない
そこで一息ついて、神官長様は柔らかく微笑む。
「時間はかかったとしても、私と貴女が互いに納得できる方法で共に歩める方法を、一緒に考えてほしいのです」
なんとも神官長様らしい。『一緒に来てくれ』とは言わないんだね。でもあたし、お父さんやお母さんのことを考えると少しだけ迷うけど、最終的な答えは決まってるんだ。あたしは、神官長様の傍にいられれば、きっとそれだけでいい。
前は遠い海外に嫁ぐ人の気持ちって理解ができなかった。環境も常識も何もかもが違うわけだし、頼れる人も夫しかいないって結構なハードルだ。しかも簡単には実家に戻れない。テレビで見る度、勇気あるなぁって思ってたよ。
でも今ならその気持ちが分かる。
海外どころじゃなく遠い異世界に行ってしまったら、もう二度とここには帰って来れないだろう。家族はもちろんおじいちゃんが残してくれたこのお店の常連さんにも会えなくなる。申し訳ないし、正直寂しい。
それでも、あたしは神官長様の傍で、彼を支えながら生きていきたい。そう思った。
自分が苦労することはいとわずに、いつだって困難に直面した人を助けることを最優先にする人だから。界を越えてまで思いを伝えに来てくれたというのに、結局あたしの気持ちのほうを優先してくれる、そんな人だから。
「神官長様、あたし……家族も友達も、この店もこの世界も、仰るとおりとてもとても大切なんです」
脳裏に大切な人たちの顔が浮かぶ。あたしは一人娘だから、あたしがいなくなってしまったら、お母さんやお父さんはきっと悲しむしすごく寂しがるだろう。それが分かっていても、どうしてもあたしは。
「でもあたし、それでもどうやら神官長様と一緒に居られることが一番大事みたいです」
「アカリ……いいのですか?」
「はい、連れて行ってください。貴方が住む世界、エリュトゥールへ」
お父さんやお母さんにもう一度会う時間くらいは欲しいけれど、この決心は変わらないから。
「大切にします……!」
感極まったように言った神官長様は、再びギュッと抱きしめてくれる。神官長様の温かい腕が、胸が心地いい。絶対に振り返ってくれない筈の神官長様が、今はこんなにも近い。
「神官長様」
「はい」
「大好きです」
見上げて言えば、神官長様は一瞬目を見開いて、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
「私も、アカリを愛しています」
何百回と言ったこの言葉に、こんな返しが来るをもらえる日がくるだなんて……こんな幸せがあっていいのかな。夢かも。でもたとえ夢だとしても、もうこの腕を離したくない。
あたしもこの愛しい人をギュッと抱きしめ返した。
ここで完結にしようかめっちゃ迷いましたが、アカリのこれからとか、女神様がなぜ降臨していたかが分かるように、もうちょっとだけ続けますね。




