アカリ、大好きです
慌てて下を向こうとしたけれど、「アカリ、顔を見せて」と切なげに言われれば、顔を上げないわけにもいかない。
久しぶりに間近で見る麗しい顔は……涙を湛えた瞳も、若干紅みが増した頬も、何かを言おうとして震える唇も……圧倒的な破壊力だった。
目が合って、常は無表情だった筈のご尊顔が、嬉し気な笑顔を作る。
「アカリ、大好きです」
あたしの専売特許のセリフを、言われてしまった。恥ずかしくて、嬉しくて、なすすべなく手がぶるぶると震えた。
「愛しています。私と、共に居てくれませんか?」
たまらず、神官長様の胸に飛び込んだ。
二度と会う事すらないとあきらめていたのに、まさかこんな幸せな日がくるだなんて。
どうやら、神官長様を導いてくれたあの聖杖は、あたしの幸せも導いてくれたらしい。
エリュンヒルダ様が笑ってみているような、そんな気がした。
「あ~~~……コホン」
神官長様にぎゅーっと抱き着いて、この世の春を堪能していたら、どこからか控えめな咳払いが聞こえた。あれ? あたしちゃんと『準備中』の札、さげたはず。そう思いつつあたりを見回せば、神官長様の後ろになんとも神々しいお姿が見えた。
「エリュンヒルダ様!?」
「えっ!?」
あたしの声に、驚いたように神官長様も振り返る。あっ……離れちゃってさびしい。
「すまぬな、妾も無粋だとは思うたのじゃが」
「いえいえいえ!」
「申し訳ありません」
単純に驚くあたしの横で、神官長様はなぜかエリュンヒルダに謝っている。
??? と思って見上げたら、神官長様がバツの悪そうな顔であたしを見おろしていた。
「実はユーリーン姫も女神様も、アカリが戻ってくれることを心待ちにされているのです。ユーリーン姫は泣かせてしまいましたし、随分と叱られもしました」
「こやつが不甲斐ないからの」
あらら……ユーリーン姫に詰め寄られて困っている神官長様のお姿が目に浮かぶようだ。
「して、アカリは妾の世界に戻る気はあるのかえ?」
女神様から直球で放たれた言葉に、あたしは一瞬言葉を失った。でも、そうだ。神官長様と共に在る、というのはそういうことだ。
「アカリ。さっきも言った通り、私は貴女とともに在りたい。ですが私はなによりアカリの気持ちを大切にしたいと思っています」
神官長様があたしの手をとり、真剣な顔で告げる。
「貴女にもこの店や家族、友人など……大切な人たちがこの世界にあるでしょう。それを捨ててこちらの世界に来てほしいなどと、簡単に言えるはずがありません。私も私の癒しを待つあの世界の方たちを捨ておくわけにもいきません」
それはそうだろう、神官長様はあの世界で奇跡を体現し皆の心の支えになっているお方だもの。
「ですから」




