貴女に、伝えたかったのです
さっきは再会の感動でスルーできたけど、かつてはハグなんかされたことないから、冷静になるといたたまれないんですが。
僅かに身じろぎすれば、さらに腕にぎゅっと力がこめられる。
恥ずかしすぎて離して欲しいけど、真っ赤になっている事請け合いなのでよく考えたら離されても逆に困るかも。なんという責め苦。
「あの……じゃあ、神官長様はなぜここに?」
「私は、幸せではなかったから」
その言葉の不穏さに、神官長様の声の哀切さに、あたしの胸はまたドキリと音を立てた。呟くように綴られる神官長様の言葉を聞き逃すまいと、あたしは必死で聞き耳をたてる。
あたしならきっと、神官長を導くアイテムを用意できるはずだから。
「恥ずかしいので、このまま言いますけど」
「……はい」
神官長様もなれないハグで腕を離すタイミングを失したらしい。そうわかって少し落ち着いたあたしには、神官長様の心臓が、死ぬかもしれない程バクバクと早鐘を打っているのも聞こえている。
俄然、やる気になった。
頭上から深呼吸が聞こえてくる。頑張って! 神官長様の望みならあたし、女神様に土下座してでも導きアイテムをゲットして見せるから!
「アカリが、好きなんです」
「……え?」
突然発された言葉に、あたしは頭が白くなった。
え、ちょっと待って。
ちょっと待って。今、なんて。
「貴女が居なくなったあの日、本当は貴女にこの気持ちを告げるつもりでした。なのに、忽然と貴女は消えてしまって」
あたしの混乱にも気づかない様子で、神官長様は訥々と自らの思いを吐露していく。
待って、理解が追い付かない。
「世界はおおむね平和です。空を覆う魔が払われ世界は穏やかで光に満ちています。でも、私は貴女がいないというそれだけで、悲しくて辛かった」
そんな、まさか。
共に旅した神官長様の淡白なお顔からはとても想像ができないお言葉に、あたしの頭はどうしても素直に情報を処理してくれない。
「願ったのです。毎夜毎夜、貴女に会いたいと……あの聖杖に、女神様に、どれだけ願ったか分かりません」
ああ、じゃあ、夢で見たあの切なそうなお顔は、もしかしてあたしを想ってくれていたというのか。夢の中であたしの名を何度も何度も呼んでくれていた、あの必死な様子が思い浮かぶ。
神官長様が……あたしを? あんなにも?
「アカリ、会いたかった……! 貴女に会って、今度は私から、ちゃんと伝えたかったのです」
すう、と息を吸って、神官長様はようやくあたしを体から離した。
やばい、やばい、真っ赤だし涙ボロボロだし、多分化粧も涙で剥げたと思うんだけど。




