ほら、行くぞ
「あ、うん。大丈夫だけど」
「それと、さっきオーダーしたアイスティーの追加分は取り消してもいいですか?」
「もちろん」
こんな状況でダメだなんて言うはずがない。あたしは即答した。ていうかそれにしてもクール君、びっくりするくらい冷静だよね。
「すみません、ありがとうございます」
そして、もう一度やんちゃ君に向き直ると、無表情のまま彼の鼻水やら涙やらを再度グイグイと拭ってあげている。クール君は意外にも世話焼きな気質なのかもしれない。
「ほら、頑張って泣きやめ。行くぞ」
クール君はさっさと立ち上がって、やんちゃ君のカバンや荷物に手を伸ばす。
「ど……どこに」
「お前のひいばあちゃんのお墓だよ。そんなに後悔してるなら、うじうじしてねえで謝りに行けばいいじゃないか」
「お墓……?」
「そう。死んだ人ってお墓にいるんだろ? ちゃんと謝って、目の前……っていうかお墓の前で一緒にラスク食って、美味いって笑えばいいんだ。たぶん聞こえてるし、お前がそんなに好きなひいばあちゃんなら、反省してるの分かってきっと許してくれるだろ」
クール君……!
あんな無表情で、そんなことを考えていたなんて。やんちゃ君もびっくりしたみたいにクール君を見上げる。驚いたせいか、涙が出てくる勢いが一気に弱まったみたいだ。
「そっか……」
やんちゃ君がかみしめるように呟く。やんちゃ君の友達が、クール君で本当によかった。
彼らの勢いがそがれないように、あたしもテーブルからラスクを回収すると急いで厨房へと向かう。ラスクをお墓に持っていけるようにラッピングしてあげなくちゃ。
これでやんちゃ君の心残りが少しでも解消できるといいんだけど。
「お待たせ」
「ありがとうございます」
ラッピングしたラスクを渡すと、クール君がちゃんとお礼を言って受け取ってくれた。口数は少ないけれど、クール君はこういうところがとっても律儀だ。
「どういたしまして。それより、お金は足りる? なんなら貸すけど」
「多分……お前のひいばあちゃんのお墓って遠いのか? 五千円くらいなら今持ってるんだけど、足りるか?」
「遠くない……電車で、20分くらい」
「道は分かるか?」
「うん、駅のそばだったから」
「そっか、良かった」
安心したように頷いてから、クール君は「大丈夫です」と請け負った。
二人連れだって出て行く後ろ姿を、あたしは心配なような頼もしいような気持ちで見送る。やんちゃ君は吹っ切れてくれるだろうか。少しでも自分の中で納得できるといいんだけれど。




