俺だって泣き止みてぇよ
やんちゃ君をじっと見つめたまま、口をへの字に曲げて眉根をぎゅっと寄せている。慰めたくてもうまく話せなくて、どうしたらいいのかと逡巡してる雰囲気がみてとれた。
でも、そうそう口を出すわけにもいかなくて、あたしは静かにアイスティーを置いてその場を立ち去る。
厨房に入ったその瞬間、急に脳裏に何かが閃いた。
「ラスク……?」
それも、食パンの耳を油であげてお砂糖をまぶしたみたいな、手作り感のあるほのぼのラスクだ。
作れなくはない。フレンチトーストとかを出している関係上、食パンは常備してるし買い足しだって簡単だ。とりあえず作ってみるか。
ごそごそと食パンをとりだしてサクッと耳をおとしていく。さっき浮かんだイメージの感じだと、ちょっと厚めに切り落として白い部分が多めの方がいいみたいだったから、できるだけ再現性を高めていく。
なんだか懐かしいなぁ。私も子供のときに結構食べたかもしれない。
きつね色に揚がっていくのを見ていたら、自分も食べたくなってしまって多めにつくってしまった。あとでおやつにしよう。
油から食パンの耳を取り出したら、シュガーをまんべんなくまぶしていく。うん、美味しそう。
「あ」
もしかして準備中の札下げてたほうがいいのかな。
異世界からのお客さんじゃないときは普通そんなことはしないんだけど、今日はやんちゃ君がすでにボロボロに泣いちゃってるしなぁ。このラスクを持って行ってどう状況がかわるかわからないから、念のために準備中にしておいた方がいいかも。
素早く入り口のドアに『準備中』の札を下げて店内に戻ったら、奥の席から弱り切った声が響いてきた。
「お前なぁ、いい加減にしてくれよ……」
「俺だって……泣き止みてぇよ」
ぐすっ、ぐすっと盛大に鼻をすすり上げる音も聞こえてくる。でも、さっきみたいに込み上げてくるような嗚咽ではなくなってきているから、落ち着いてきたみたいではある。
今なら行ってもいいかもしれない。あつあつの方がより美味しいしね。
この子たちには以前もお導きでポテチをサービスしたことがあったから、おせっかいな人だと思われるだろうなぁ。でも、きっとなにかお導きをすべきタイミングなんだろうと思うから、何もしないで放っておくことなんてできないもの。
白いシンプルなお皿にラスクを盛り付けて、あたしはゆっくりと奥の席に近づいていく。
あつあつの方が美味しいし、喜んでくれるといいんだけど。
「そんなに泣く理由も教えてくれないんじゃ、慰めようもないじゃないか」
「ごめん……」
「ま、いいや。もう一杯頼むから、落ち着いたら行こうぜ」
ぶっきらぼうな言い方のなかにも優しさが感じられて、こっちまで優しい気持ちになるから不思議だよね。




