大切な人を亡くすということ
クール君が「こっちだ」なんて腕を引いて、一番奥の目立たない席へと連れていく。
「急に道端で泣き出すなよ。びっくりしたわ」
「お……前が、ばあちゃんの話題なんか、出すから……」
「いや、忌引きで何日も休んだんだし、聞くだろ普通」
そう言いながらクール君はポケットからさっとハンカチを取り出してやんちゃ君に手渡した。腕で乱暴に涙をぬぐっていたやんちゃ君はハンカチを無言で受け取って、そのまま顔を隠すようにうつむいた。
嗚咽が響くその席に近づくのは気が引けたけれど、行かないわけにもいかない。とりあえず、たまたま他のお客様がいなくてよかった。こんなことは滅多にない。
さっさと終わらせて二人にしてあげた方がいいだろうと思って近づいたら、クール君がさっと振り返って「アイスティーふたつ」とオーダーしてくれた。
やっぱりあんまり泣いてるところを見せないようにっていう配慮なんだろうね。いつもはとっても素っ気ないのに、こんな時は優しいクール君にちょっとほっこりする。
「泣くなって。まあ仕方ないか、お前、ばあちゃんっ子だったもんな」
「ひいばあだ」
「ああ、ひいばあちゃんだったか。その……死に目、には会えたのか?」
「……会えた、けど……」
やんちゃ君の嗚咽がさらにひどくなる。厨房への戻り際に聞こえたのはそこまでだった。
言いにくそうに尋ねたクール君の言葉から察するに、やんちゃ君のひいおばあちゃんが亡くなってしまったんだろう。やんちゃ君、ひいおばあちゃんが大好きだったんだね。
あたしも大好きだったおじいちゃんが亡くなった時、涙がかれるくらい泣いて泣いて、でもお通夜やら告別式やらその後の手続きもろもろで忙殺されて、やっと日常に戻ったときにはじめて胸にぽかっと穴が開いたみたいな喪失感に襲われた。
もしかしたらやんちゃ君も、大切な人を失ってしまった喪失感に苛まれているのかもしれない。
でもこればかりは、そう簡単に癒える傷じゃないよね……。だれもその人の代わりにはなれないんだもの。
そんなことを思いながらアイスティーを手早く作って、あたしは二人の席にむかう。近づくとやんちゃ君がずっと泣いているからか、クール君の困ったような声が多く聞こえてくる。
いつもはやんちゃ君がずっと大きめの声で話しかけてて、クール君は生返事だから、今日は完全に逆な感じだ。
「もう、泣くなって。そんなにメソメソしてたら、ひいばあちゃんが心配するぞ」
「しない……だって……俺、ひいばあに酷いこと言った。ひいばあだって呆れてる」
「何言ったんだよ」
「言いたくない」
「……」




