後悔しないように頑張れよ
正直に言いすぎたのでしょうか。
私の説明を聞いたコールマンは、椅子から転がり落ちてまで爆笑しています。
「正直に話したというのに、そこまで笑うこともないでしょう」
つい憮然としてしまいましたが、コールマンは意に介した風もなく涙を拭いつつ立ち上がりました。笑いすぎで泣かれるとは心外です。
「いやだってお前、夢でアカリが男に言い寄られてるのを見たからって……可愛すぎだろ!」
「アカリがいなくなってから、あの世界の夢を見続けているのです。とてもただの夢とは思えません」
「なるほど。で、アカリはどうなんだ?」
「どうって……」
「脈がありそうなのかってこと。付き合いそうだったのか? その男と」
そんなことを聞かれても、こういう事に疎い私に分かる筈がありません。しかし、アカリが私を忘れようと努力していること……そして、彼もまたアカリをあきらめるつもりはないようだということだけは確かです。
「分かりません……ですがアカリの気持ちが彼に向くまで、彼は待つつもりのようでした」
「なるほどな」
「アカリも……」
その先は口にできませんでした。私を忘れようと……前向きに検討するつもりのようだと、言葉にしてしまうとそれが現実になってしまいそうで怖かったのかもしれません。
「そんな顔すんなって」
なぜか労わるように頭をポンポンと撫でられました。まるで子供のように扱われていますが、そんなに情けない顔をしていたのでしょうか。
「今が正念場だってことは分かった。ユーリーンには俺がうまいこと言っとくから」
「コールマン……!」
「後悔しないように頑張れよ」
「感謝します」
ベッドの足元に置いてあった聖杖を手に取ると、コールマンは私に投げてよこしました。
ああ、確かにまた蒼が増えている。
そういくつも街をまわらないうちに、きっと蒼が満ちるに違いありません。
「道中少しでも休めるように馬車を手配しておく。さっさとアカリに会って、こっちの世界にかっさらって来ちまえ」
たまには少々強引なくらいがいいんだぜ、とコールマンは軽口を叩いてから悠々とテントを出ていきます。彼なりに激励してくれたということでしょうか。荒いように見えて、コールマンはとても気が利く心根の優しい人です。
コールマンの心遣いに感謝しながら手早く身支度を整えて、私もテントをあとにしました。
蒼が満ちるまでもう少し。
どうかアカリ……それまで彼の手をとらないで。もう一度貴女に会いたい。このあふれるような思いを貴女に伝える機会を私に与えてほしいのです。




