それでは遅いのです!
時間が惜しくて睡眠を削って移動にあてているのもよくなかったのでしょう。眠らないと魔力の回復が阻害されてしまうので、確かに悪循環に陥っていました。それが周囲に不安を与えてしまったのでしょう。
どうやら私は必死になると周囲の目をおろそかにしてしまうようです。ユーリーン姫にもコールマンにもまた迷惑をかけてしまいました。
これまで魔力を惜しんでいましたが、これからは自分にも疲労回復などをかけつつ、周囲のかたに心配をかけないように注意しなければ。
「申し訳ありませんでした。これからは出来るだけ無理をしないようにしますから」
「嘘つけ」
安心して貰おうと思ったのですが、まったく信じてくれていないようです。これまでの自身の行動を振り返ればそれも致しかたないのかも知れませんが。
「とりあえず喰え。また倒れられちゃかなわねえ」
差し出されたサンドイッチとスープを、私は大人しく口に運びました。……ああ、こんなにゆっくりと食べ物を口にしたのは久方ぶりかも知れません。
「美味しい……」
「なによりだ」
ニッと笑ったコールマンがベッドの脇に椅子を置き、どかっと腰をおろしました。真剣な顔で私と目を合わせると、肩をぐっと掴んで言い聞かせるようにこう言いました。
「お前さぁ、アカリに早く会いたいのは分かるが、それでお前が体を壊しちゃ元も子もねえだろうが。アカリも悲しむぞ」
「ですが本当にあと少しなのです。アカリに会えた後にはしっかりと体を休めると誓いますから……あと数日、見逃してはくれませんか?」
「ここまで一年以上経ってるんだ。あと一日や二日遅れたところでなんてことねえだろうが」
「それでは遅いのです!」
つい、声が大きくなってしまいました。
ですがその一日、二日でアカリがあの男性の想いを受け入れる決意をするかも知れない……そう思うと居ても立ってもいられないのです。
深いため息をつくコールマンに嘆願の視線を送っていたら、肩に置かれた手がぐっと力を増します。真正面から私を見据え、コールマンはゆっくりと口を開きました。
「何があった」
「なにがです?」
「とぼけるな。急に死に物狂いになりやがって。何を急いでいる」
思わず目を逸らしました。自分でも最近知った『嫉妬』という感情を知られたくなかったのかも知れません。そんな私を見てコールマンは面白そうにニヤリと笑いました。
「ユーリーンにはベッドに二、三日括りつけとけって言われてるんだけどな」
「そんな……!」
堪え切れないようにコールマンが破顔します。こちらは気が気ではないというのに。
「素直に吐けって。正直に言えば俺がユーリーンを説得してやってもいいんだぜ?」




