いい加減にしろ!
「いい加減にしろ!」
ゴスっと鈍い音がして、目の前に火花が散りました。
「〜〜〜〜っ」
随分としばらくぶりに受けた頭部への打撃にくらっとして、私はうずくまります。
「ほら見ろ、ヨロヨロじゃねーか! いいから大人しくベッドに入ってろ!」
いえ、今のは貴方が容赦なくゲンコツを落としたのが原因でしょう……そう言いたいのに、コールマンが鬼の形相で私を見下ろす威圧感が凄くて言葉になりませんでした。
そんなに怒らなくても良いと思うのですが。
「そんな顔をしてもダメだ! 寝ろ!」
寝るまで見張ってるからな! なんて脅すように言われて、私は渋々ベッドへと入ります。ああ、まだ夕闇すら訪れていないこの時間なら、あと三人は治癒なり悩みを聞くなりできたでしょうに。無念です。
「目ぇ閉じろって」
やれやれ、コールマンときたら、本気で私が眠りにつくまで見張っているつもりのようです。何も我が国の筆頭聖騎士である貴方自らが見張ることもないでしょうに。
心の内で少しだけ恨み言を言いながら、私は仕方なく目を閉じました。
……余程疲れていたのでしょう。
一瞬で眠りに落ちてしまったらしい私が再び目を開けた時には、すでに清々しい朝日が輝いている時刻となっていました。強がってはみても体は正直だということでしょう。
足元付近に立てかけておいた聖杖を見れば、昨日よりもさらに蒼が増えています。この調子ならばあと数日で蒼が満ちるかも知れません。
急がなければ。
「ったく、ちっとはゆっくり出来ねえのかね」
身じろぎした瞬間突如かけられた声に、少しだけ驚いてしまいました。気配を感じなかったのに、いつの間にかコールマンがすぐ傍にいます。どうやら夜通し傍についていてくれたようでした。よくよく心配をかけてしまっていたようです。
「お前なぁ、ユーリーンの身にもなってみろよ。お前が救ったあっちこっちの町や村から、お前を働かせすぎなんじゃねえかって突き上げ食らうのはユーリーンなんだぞ」
「そんなことが……?」
「神聖魔法の使いすぎでちょいちょい魔力切れ起こしてるみたいじゃねえか。青い顔したままろくに休みもせずに馬かっとばして次の街に行くんだ。そりゃあ癒やしを施して貰った側だって心配するさ」
それで合点がいきました。王都からかなり離れた場所だというのに、急にコールマンがやってきて無理矢理ベッドに押し込められたのは、そういう経緯があってのことだったのですね。
奇跡を使うと蒼が減ります。それを恐れて出来る限り自身の魔力……神聖魔法で対処しようとすると、どうしても魔力切れが起こりやすくなってしまうのは否めません。




