貴女の瞳に映りたい
なんということでしょう……!
目の前で繰り広げられる光景に、私は臍をかむ思いでした。
二人の会話の最初のほうは、まだ私も心穏やかに聞けたのです。特にアカリが忘れられない想い人がいる、と話してくれた時には、心が躍るようでした。話の内容から『想い人』が明らかに私を指していると察することができたからです。
有り難いことです。
離れてから一年以上経ってもなお、アカリの心の中に自分の存在が大きく残っていることに、安堵とともに言い知れぬ沸き立つような幸福感が生まれてきます。
アカリの純粋さと情の深さをただ尊く思いました。
ただ、言葉尻から彼女が私への想いを断ち切ろうとしていることも充分過ぎるほど伝わってきて、それが私をいっそう焦らせます。
「その人のことは忘れられないとしても、男は山ほどいるからさ。他の人にもそろそろ目を向けてもいいんじゃない?」
「そうですよね、努力します」
男性の問いかけにはっきりと「努力する」と答えたアカリに目の前が暗くなる想いでした。いえ、そもそもアカリは、住む世界を変えてまで私と決別することを決めたのです。彼女にとっては当然の回答なのでしょう。
「もちろん俺も候補に入れてね」
男性の言葉に頬を染めるアカリ。私は拳を握りしめ、悶絶するような思いでその光景を見つめることしか出来ません。
アカリのまっすぐな瞳に映るのが、私でないことがこんなにも辛い。
直截に「自分を見て欲しい」と訴えられるあの男性が羨ましくて仕方がありません。こんなにもまっすぐに想いを伝えられて、アカリの心が揺らがないと断じる自信が私にはないのです。
私はただの一言も、アカリに想いを伝えられていないのですから。
彼女の瞳に今一度映りたい。彼女にこのあふれ出そうな想いを伝えたい。その衝動だけが身のうちでぐんぐんと膨れ上がっていきます。
ふと「神官長様、大好きです」と日に何度も告げてくれたアカリの笑顔を思い出し、笑みが漏れました。
……アカリも、こんな気持ちだったのでしょうか。
そして、私は改めて誓いました。
もう時間がありません。彼女が誰かのものになってしまう前に、なんとしても聖杖の蒼を満たし、彼女にこの想いを告げると。
うかうかしていたら、まっすぐにアカリに想いを伝えるあの男性のような人物に、アカリを奪われてしまうでしょう。
そう心を定めると、夢の世界にいるであろうことすら煩わしいと感じられます。
夢の中では無力です。早く現実に立ち返り、蒼を満たさなければ。
私は総身に力を入れ、気合いで目を覚ましました。




