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出戻り聖女の忘れられない恋  作者: 真弓りの


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こんな焦燥感は初めてです

「おはよう」


「おはようございます! この頃毎日早いですね」



仕事が忙しいんですか、とちょっと心配げに訪ねるアカリに、男性は笑って否定の意を示します。



「いや、仕事は普通。この時間ならアカリちゃんとゆっくり話せるからさ、頑張って早起きしてる」



嬉しそうに相好を崩すその男性には見覚えがありました。以前、私が初めて嫉妬を覚えた……アカリに恋情を抱いていると思われる、あの男性に違いありません。


あの時確かに「この時間にくればゆっくり話せるんだな。よし、早起き頑張ろう」なんて呟いていましたが、どうやら彼はそれをしっかりと実践していたようです。


しかも、いつの間にかアカリちゃん、などと親密そうに呼ぶほどになっていたなんて。


いつでも会える、側に居られることの強さを実感する思いです。ああ、なぜ私はアカリが傍に居た時に無駄に時間を過ごしてしまったのでしょうか。悔やんでも悔やみきれません。


アカリは彼の事をどう思っているのでしょうか。


不安で、彼女の心の内を覗き見たい衝動にかられます。ですが、もしも……僅かに想像しただけで、身がすくむような怖さが私の身を苛みました。


心の内など知らない方が幸せなのかも知れません。彼女が別の誰かに思いを寄せているところなど、きっと私は耐えられない。誰よりも大切な人の幸せを喜べない自分がいるということなど、知りたくはありませんでした。



「はい、お待たせしました。いつもの簡単朝食セットです」


「おー美味そう!」


「ありがとうございます。でもさすがに毎日同じだと飽きちゃいません? 新メニューでも考えようかな」


「うーん、俺は別に。サンドイッチの具材変えてくれてるし、サラダもドレッシングが色々選べるから不満はないけど」


「良かった」



二人の自然な会話に胸が抉られるようです。しかし、アカリは節度を保った態度のように思えますし……いえ、そう言えば私にも充分に節度を保った態度でした。これではなんとも判定できません。



「俺はアカリちゃんが作ってくれるだけで満足だからなぁ。あんまり参考にならないかも」



男性はそう言ってアカリに朗らかに笑いかけます。アカリの頬がわずかに赤くなったのが見えて、私は衝撃を受けました。


アカリもこの男性も……この世界の人々は、なんと直截に好意を口にするのでしょうか。


こんな会話にも慣れているのか、面映ゆそうな表情は一瞬だけですぐにアカリは明るく彼に笑い返します。



「じゃあご期待に添えるように、明日はふわふわ卵焼きサンドをご用意して待ってますね」


「お、大好物」



食の好みすら把握している様子に。アカリの口からでた「待っている」という言葉に。まるで火傷でも負ったかのように胸がじくじくと痛みます。


こんな焦燥感は初めてのことでした。

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『出戻り聖女の忘れられない恋』
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