訪れたのは
「すごい夢だったー……」
そう呟いて、アカリがふわふわの布団からゆっくりと起き出ていきます。
どうやら私はまた、夢でアカリの姿を見ることが出来ているようです。蒼をあれだけ使ってしまっては、しばらくは私個人の願いを叶えることはできないでしょうから、こうして夢で会えるだけでもありがたいことです。
今日もアカリが健やかで、幸せであればそれでいい。
私の願望により見えている幻かもしれませんが、彼女は今日も清潔で気持ちよさそうな寝具で眠り、明るく居心地が良さそうな部屋で身支度を調え、楽しそうな表情で店を開けています。
その恵まれた環境で彼女が穏やかに生活してくれていることに、私は感謝しました。特にあの災害を見たばかりの私にとって、彼女が身に憂い無く暮らしていると思えることが何よりも重大なことだったのです。
これから来るであろう客のためにでしょうか、彼女は真剣な表情で黒い豆を計量し、煎り、彼女がよく使っている機械に投入していきます。
そうして機械が動き始めると、ほうっと長い息をして彼女はポツリと呟きました。
「神官長様、大丈夫かなぁ……」
空耳でしょうか。今確かに、アカリの口から『神官長様』という言葉が出たように思えます。私のことだと思っても良いのでしょうか。
離れてから一年経った今でも、アカリが私を気にかけてくれていると思っても良いのでしょうか。
「もう目が覚めたかな、無理してないといいけど……」
彼女の唇から、私を案じる言葉が出ていると、そう思うだけで心が打ち震えます。まるで今の私の状況を知っているかのような口ぶりに驚きはありますが、なんといっても彼女は聖女です。私には分からぬ力をもって状況を理解しているのかも知れません。
なんでもいい。アカリが私を完全に忘れていないと知ることができただけでも、私にとっては僥倖です。
女神エリュンヒルダ様に感謝の祈りを捧げていると、来客を知らせる愛らしい鐘の音が響きました。
「いらっしゃませー!」
アカリの明るい声が店内を彩ります。
そういえばアカリは起き抜けでもこうして元気のいい、明るい声で挨拶してくれていましたね。朝から元気を貰っているようで、いつもあの声を楽しみにしていたことも、本当は彼女に伝えたかったことのひとつでした。懐かしくてつい頬が緩みます。
彼女の声を直接聞ける幸せな御仁は誰でしょうか。
羨ましくて、店内に入ってくるその姿に意識を向けた私は、少し……いえ、かなり動揺しました。




