明らかに無理してるじゃないの!
「水位が下がっていく」
「あんなに何日も引かなかった水が」
水が引いていく様を感極まったように見つめる人々の姿に、あたしの目にも涙が浮かぶ。
良かった。本当に良かった。
魔が払われた時と同じように心から喜び抱き合って涙する人々を見つめて、あたしも一緒に思い切り喜ぶ。でも、ふと目の端にユーリーン姫がほっとしたように息をついたのが見えて、あたしの意識は一気にそっちへと導かれた。
「良かったわ……」
明らかに緊張が一気にほぐれたという様子のユーリーン姫を、コールマンさんが素早く支える。
「大丈夫か」
「ええ。……街の人たちは大きな災害を受けたばかりだったから……なんの前触れもなくまた大きな地形の変化などが起こったら、恐慌状態になってもおかしくはなかったから。無事に済んでほっとしたわ」
微笑みながらそう話すユーリーン姫の言葉に、あたしはようやく彼女の考えを理解した。テントの中でいきなり奇跡を行使しようとした神官長様を強硬に止めたのは、街の人々の心境を慮ってのことだったんだ。
「良かった。自分たちのために奇跡が行使されたと思うだけで、きっと沢山の民が救われるわ」
確固たる意思を感じさせるユーリーン姫の笑顔に、あたしは急に懐かしさを感じる。
そうだ、彼女はそういう人だった。
王族という出自のせいだろうか、彼女はいつだってより多くの人が利益を得る方法を考えていた。「ひとつの行動で最大の効果を」なんて口癖みたいに言っていたけれど、一見不遜なように聞こえる彼女の主張は、いつだって彼女の優しさからくるものばかりで。
神官長様の奇跡の力やあたしの導きの力が目立っていたけれど、長い旅路の間あたし達を精神的に支えていたのは、彼女のこのぶれない姿勢だった。
そうだよね、彼女が何よりも大切にしていたのは国民だもの。国民の安寧を常に願っていた彼女らしい、本当に。
「それに、ほら。蒼もメキメキと貯まっているわ」
にっこり笑って聖杖を見るユーリーン姫につられて見てみれば、確かにいったんは色を失っていたんだろう宝玉が見る間に蒼くなっていく。でもそれよりもあたしの目は、聖杖のすぐ横にある神官長様の顔に釘付けになってしまった。
待って。大丈夫なの? これ。
神官長様の額には大粒の汗がにじんで、聖杖を握る手だって細かく震えてる。
明らかに無理してるじゃないの、神官長様!
心配で心配で「誰か気づいて!」って必死で叫んだ。あたしの声が聞こえたわけでもないんだろうけど、コールマンさんが苦笑しながら神官長様の肩にゆっくりと手を置く。
「まったく……無理しやがって。ナフュール、お前はもうベッドに戻れ」




