神官長様、かっこいい!
やがて神官長様が目覚めたら、ことは一気に進み始めた。
起きていきなり奇跡を行使しようとする神官長様と、身を案じて止めようとするユーリーン姫との激しい口論までもがはっきりと聞こえてくる。
いつものろくに音や声が拾えないぼんやりした夢に比べ、あまりにも会話の詳細までが聞こえてきて、まるでその場にいるみたいな臨場感。でも、どんなに鮮明に見えて聞こえようとも、会話にはいっさい入れないのがつらい。
まだまだ青い顔で、それでも奇跡を行使することをあきらめない神官長様をとめたくても、あたしには何もできなかった。でも、それも仕方がないことかも知れない。
あれだけの惨状を見て、神官長様が黙っていられるはずがないもの。きっとあの場に居たとしても私にだって神官長様を止めることなんて出来なかったに違いない。
一歩もひかない神官長様の主張に負けて、ついに奇跡を行使することで話はまとまったらしい。テントの中で聖杖を掲げて奇跡を起こそうとした神官長様の腕を強くひいて、コールマンさんがテントの外へ引っ張り出す。
あたしは、その外の光景に目を見張った。
だってテントの周りには、人、人、人。まるで街中の人が集まったかのようにたくさんの人々が心配げな顔で神官長様を見つめていた。
神官長様の姿に歓声を上げた人々が、体調を案じて口々に声をかけてくれる。そして、それにいつもの優しげな笑顔で「ご心配をおかけしました」と応える神官長様。その足取りはさっきまでと打って変わってしっかりとしている。
きっと街の人々に心配をかけないように、ふらつく足を気力で抑えているんだろう。
そんな神官長様にわずかに苦笑して、ユーリーン姫は高らかに声を上げる。
「これから神官長が、女神エリュンヒルダ様のお力を借りて川をせき止める土砂を取り除きます。皆さんを苦しめた水害は、これで収束するでしょう」
どよめきがその場を包む。街の人々の表情は様々だった。歓喜や安堵はもちろん、信じられないといった顔の人もいれば、神官長様の体を心配して不安げな顔の人もいる。
それでも、神官長様が穏やかに「皆さんも心静かに、一心に祈りを捧げてください」と声をかけると、街の人々が膝をついて一心に祈りを捧げ始めた。街の人々の祈りと神官長様の祈りが最高潮に達したとき、聖杖の蒼い宝玉が強い光を放つ。
それとほぼ同時に川をせき止めていた莫大な量の土砂が空に浮き上がって、どうなってるんだかそのまま消えてしまった。もちろんせき止められていた水が囂々と流れ始めてその場は一斉に歓声に包まれる。
「うわぁ!」
「土砂が浮いた!」
「ていうか消えた!!」
「うそ!!!?」
「水が流れた!!!」
街の人々が大興奮で叫ぶのと同じくらい、あたしも大興奮だ。
さすが神官長様! かっこいい! すごい!




