すっっっっっっごい夢を見た。
すっっっっっっごい夢を見た。
神官長様が、ものすごい奇跡を起こす夢。今でも胸がバクバクしてる。
最初は茶色い濁流に沈んだ街が見えたんだ。それはあまりにも恐ろしい光景だった。
切り立った渓谷の下、大きな滝つぼから流れる川のほとりに作られた街は、三方を崖に囲まれていただけに水が抜ける場所がなかったんだろう。いや、水が抜ける場所だったところが、土砂崩れで塞がってしまったという表現の方が正しいのかも知れない。
もともと背の高い建物が少なかったんだろう、茶色い濁流に飲み込まれ、家がほぼ水に沈んでしまっている。
神官長様は、そんな水に覆われた街を見下ろす高台に立って、街の人を助けようと必死に動いていた。たった一人で沢山の人を浄化して、回復して……休みすらとらずに延々と。
ああ、神官長様が何か唱えるたびに、人々の体にこびりついた汚れがきれいに浄化される。
生気を失っていた人々の目に、光が宿る。
それは見守ることしかできないあたしにとっても、嬉しくてありがたい、希望が生まれるような光景だった。けれど、一方でなんとも歯がゆいものでもある。
夢だってことも忘れて、あたしにも何かできないかって考えるのに、なんにもできない自分がもどかしい。あの場所に一緒にいれば、あたしだってきっとなにか役に立てたのに。
こんなに息をつく間すらなく魔法を使い続けるなんて、いくら神官長様だってダメージがないはずがない。街の方たちも心配だけれど、あたしは同じくらい、神官長様が心配だった。
だって、神官長様はいつだって自分の体のことなんてこれっぽっちも考えていないんだもの。そこに切実に助けを求めている人が居たら、神官長様はきっと簡単に命だってさしだしてしまうだろう。
そんな不安がいつもあったから、ユーリーン姫たちが到着した途端に真っ青な顔で神官長様が倒れた時には、あたしの心臓まで止まってしまいそうだった。
どんどん土気色になっていく顔色。呻き声すらあげずただ静かに横たわっている神官長様の姿が可哀想で、心配で。心臓が動いているのか確かめたいのに触ることすらできないのがまたもどかしい。
ユーリーン姫の指示でテントに運び込まれた神官長の顔色は、白いテントの色を映してより青白く見える。
やがて年若い兵士さんが神官長様の様子を見に訪れて心音を確認してくれた時には、思わず泣いてしまった。
兵士さんの「良かった、生きてる」って呟きがこれほどありがたいだなんて。




