神鳥アールサスの祝福
「貴方のことだからせっかくここまで貯まった蒼を使い切ってでも救済しようと思っているのでしょう? それなら一発でドーンと『感謝の心』をゲットできるように、工夫しなさい」
「む、無茶なことを」
思わず言えば、姫は自信ありげにニヤリと口角を上げます。
「無茶なことなど言っていないわ。こんなテントの中で人知れず奇跡を行うのではなくて、街の皆に分かるようにやれば良いだけです」
「ユーリーン、コイツをうだうだ説得するより、実力行使の方が早いぜ」
言うが早いか、コールマンが私の腕をグイと引っ張ります。聖騎士の力強い腕に引っ張られれば、私の体などテントの外まで一瞬にして引っ張り出されてしまいます。
テントの外には、たくさんの人々がテントを幾重にも囲うように集まっていました。
「神官長様!」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、お顔の色が戻っている」
自分たちの方がつらい生活を強いられているというのに、街の方たちは口々に「まだ寝ていてくれ」と私の体のことを心配してくれています。きっと、皆さんの目の前で倒れてしまったからでしょう。申し訳ないことです。
この優しい方たちが、少しでも早く日常に戻れるよう、私も力を尽くしましょう。
「皆さん、もう安心ですわ。この通り神官長が意識を取り戻しました」
姫がテントから出てきてそう声をかけると、街の皆さんからはワアッと歓声があがります。
「ご心配をおかけしました」
ありがたくてそう言えば、街の皆さんは安心したような笑顔で迎えてくださいました。それを見た姫はひとつ頷くと今や孔雀ほどの大きさにまで育った神鳥アールサスを空に放ちます。
美しい白い体躯に白孔雀のような美しい尾。神鳥アールサスが飛び立ったあとには神々しい光がキラキラと舞い落ち、人々の目はその美しい姿を追って空へと導かれました。
神鳥アールサスは人々を祝福するように頭上で大きく弧を描き、そののち山を越えて反対側へとなおも飛んでいきます。私も街の人々も思わずため息をつきながらその姿を見守ってしまいました。
なんと神々しいのでしょう。
まるで女神エリュンヒルダ様のお姿を見た時のような充足感に満たされて、聖杖を握りしめて女神への祈りを捧げます。
そんな私の前に立ち、姫は街の皆さんへ高らかに宣言しました。
「これから神官長が、女神エリュンヒルダ様のお力を借りて川をせき止める土砂を取り除きます。皆さんを苦しめた水害は、これで収束するでしょう」
押し殺したようなどよめきが、その場を包みました。
 




