ただ頑張りゃあいいってもんじゃないのよ
宝玉の蒼が、一晩で驚くほど満ちています。
多くの方達を治癒したからでしょうか。それにしても増え方が大きいような気がします。
ですがこれば僥倖です。これほど力が満ちているのであれば、奇跡の力で川をせき止める土砂は取り除けるでしょう。街を覆う水までも取り除けるかも知れません。杖に貯まった蒼をすべて使いきってしまうことになるでしょうが……。
アカリ、それでも私は……。
「良かった! 目覚めたのね」
「心配したぞ」
聖杖を見つめる私の前に、ユーリーン姫とコールマンの二人が現れます。私が倒れたばかりに心配をかけてしまったのでしょう。二人は眉間に皺を寄せて、不安そうに私を見ています。
「心配をかけてしまいましたね。ですが、もう大丈夫です」
「あんまり無理しないでちょうだい。心臓がいくつあっても足りないわ」
「すみません。ですが、もう奇跡を呼ぶくらいのことはできるまでに回復しました」
そう言って聖杖を掲げ、私はまっすぐに二人を見ました。
「これだけ力が満ちていれば、大規模な奇跡が起こせるでしょう」
「すげえ! 満タンに近いじゃねえか!」
「ええ、これから女神エリュンヒルダ様のお力を借りて、川をせき止める土砂を取り除きます」
「待って!!!」
聖杖を掲げ詠唱を始めようとする私の腕を、姫がいきなり掴んで止めに入ります。
「やっと貯まった蒼じゃないの。こんなところで簡単に使うもんじゃないわよ!」
「いいえ、この規模の災害だからこそ、女神エリュンヒルダ様のお力が必要なのです。お二人が到着するまでに私はこの街の方々の虚ろな顔を多く見ました。彼らには救済が必要です」
「分かってるわよ、そんなこと」
「ならば」
「待ちなさいって」
再び詠唱に入ろうとする私を、またも姫が強硬に止めようとします。
いったいどうしたというのでしょうか。民の幸福を一番願っているのは彼女の筈なのに、止めようとする意味が分かりません。ですが、だからこそ彼女が止める理由にも興味がわいて、私はゆっくりと聖杖を降ろします。
私が話を聞く姿勢になったのを見て、ユーリーン姫はホッとしたようにわずかに笑顔を見せました。
「あのね、ただ頑張りゃあいいってもんじゃないのよ。私はどうせやるなら効果を最大限に高めるやり方をしなさいって言いたいだけ」
「……?」
今ひとつ何が言いたいののか分からなくて、私は首をひねりました。どこでやろうとも、奇跡の効果が変わるわけではありません。
いまひとつ飲み込めていない私に苦笑しながら、姫は諭すようにゆっくりと言いました。




