まずは人命が第一です
「町長が……!」
「見ろ! 泥汚れがまるで無かったみたいに」
「奇跡だ!」
周囲の人たちが一斉に色めきだち、あっという間に人垣に囲まれてしまいました。私の顔を覚えていた方もいたのでしょう。「神官長」「奇跡」という言葉がざわめきの中で大きくなっていきます。
これは奇跡ではなく単なる神聖魔法なのですが、人々にとってはそんな違いなど瑣末なことなのでしょう。恩恵が受けられるか否かの方が重要なのですから。
私は、人々の只中でスッと立ち上がりました。こうすればもっと耳目を集められることでしょう。範囲魔法をかけるにはこうして集まっていただいた方が効率がいいものです。
立ち上がって私の姿が視認しやすくなったからでしょう。奇跡を望む人々の声がさらに大きくうねりのように響きます。
私はそれに応えるように、聖杖を高く掲げました。
素早く呪を唱え、集まった方たちへ向けて範囲を指定し一斉に浄化します。美しい煌めく光が舞って、見る間に全体に茶色だった人々の肌が、服が、本来の色を取り戻していきます。
目の前で普段の生活を奪われ、体を洗うことさえできなかったであろう人々。体力を奪われ、ろくに寝具もない中で野宿のような生活を強いられ疲労がいや増していたことでしょう。
まずは気力を取り戻してもらうため、そのまま集まった方全員に疲労回復の魔法をかけます。
純粋に驚く方、涙を流す方、身内と抱き合う方、さきほどまで感情が抜けたように力なく横たわっていた人々に、感情が戻っていくのを感じます。それだけで、ここに来た甲斐があるというものです。
口々に感謝の言葉をくださる皆さんに、私もできる限り声を張って応えます。
「皆さんが未曾有の災害に遭われたとの報を受け、急ぎ参じました。この災害を無かったことには出来ませんが、出来うる限り私も助力いたします」
どよめきが包み、私を拝み始める方まで出てきました。ですがそのお気持ちは女神エリュンヒルダ様と王家に与えられるべきものです。
そしてこの街をまた活気溢れる場所にできるのは、今ここにいる街の人たちなのです。皆さんにそれを伝えるのが、私の役目でもあるのでしょう。
「王家もこの地へ向かっていますし、女神エリュンヒルダ様も見守ってくださっています。皆さん、力を合わせこの窮地を乗り切りましょう」
大きな歓声が上がり、人々の目に強い光が宿ります。喪失感から少し前を向いていただけたでしょうか。
「ケガをしている方は私の神聖魔法で治療します。私の前へ来てください。そして動ける方は手分けをして、まだここに来ていない方を連れてきてください。まずは人命が第一です」




