かなりヤバい人がきたんですけど
脳裏に浮かんだものの、これまた珍妙なものがお導きアイテムだなぁ、今回は。
まあ、異世界からのお客様へのお導きはいつだって問題が解決する瞬間を見ることが出来るわけじゃないから、お導きアイテムもイミ分かんないものって多いんだけど。
えーと……竹串、竹串、と。確かこの棚に入れてたよね。おお、あった。
思った瞬間に、いつもの奥の四人がけの席がぼんやりと光り始める。次第に強く、やがて目を覆うほどに眩しい光が店全体を覆った。
でも、特になんの音もしない。
いつもに比べて静かな登場だな~と思って奥の四人がけの席を覗いてみたら、最初からそこにいたみたいに、一人の男の人が目を閉じ頭を抱えた状態で座っていた。
めっちゃ馴染んでる……。
でも髪はボサボサ、服もぼろで清潔とはほど遠い。ずいぶんお風呂にも入ってなさそうだし、なんならご飯もしばらく食べてなさそう。だって腕とかすごく骨張ってるもの。
しかもなんかブツブツ言い出したし……と思ったら「ダメだ!」とか「くそっ!」とか急に叫んでは頭をガシガシとかきむしり始めた。
なんか多分、フケとか飛んでる。くそー、後でめっちゃ掃除しないと行けないパターンだ、これ。
ていうかこの人、異世界に来たことすら気づいてなさそうだなぁ。仕方ない、声をかけるか。
「あのー」
「ガッデム!」
「ちょっと!」
「もう少し……もう少しなのに……!」
ちっとも聞こえてない! 仕方ない、フケがたんまり散ってるからあんまりやりたくないけど、肩を叩くしかあるまい。あたしは勇気を出して彼の真横まで移動して、彼の肩を強めに叩く。
「あの! お話があるんですけど!」
「うわっ!!!」
男の人が軽く座席から飛び上がった。思ったよりも驚かせてしまったらしい。
ギッとこちらをにらみつけたその目が、異様に鋭くて目力が強い。あれだ、音楽室の肖像画にあった、ベートーヴェンみたい。
「今、何か思いつきそうだったのに! 誰だお前は!」
ずいと立ち上がってあたしに掴みかかりそうな勢いだ。案の定男の人からすえたような異臭もするし、身の危険を感じたあたしは、すぐさまお決まりの「異世界ですよ」「何か神に祈りませんでしたか?」的な説明を施した。
自分で言うのもなんだけど、うさんくささ満点だ。
でも意外にも男の人は、むしろ落ち着きを取り戻したように冷静な顔つきになっている。ぐるりとあたりを見回して、ついであたしを上から下まで見た。そのままあたしの横をすりぬけて厨房の方へ移動すると、あちこち棚の扉をあけてみては納得したように頷く。
そして、窓に近寄ったかと思うと目と口を大きく開いたまま、数分窓の外を凝視した。




