神官長様、喜怒哀楽が激しくなった?
ああ、今朝も気持ちのいい朝だなぁ。
このところ時々見る神官長の夢、かなりいい感じ。なんだか前よりも精力的に街を回って人助けしているみたいだし、夜に一人になってからも聖杖は見つめているものの、以前のような悲壮感のある表情じゃない。
むしろ蒼が貯まっていくことを喜んで、嬉しげな表情を浮かべていることが多い。
街でも現地の人々と話す表情がとても豊かになっていて、この一年夢を見続けてきた中で格段に喜怒哀楽がはっきりと表情に出てくるようになったみたい。
何か、心境の変化があったんだろうな。
すっかり日焼けして逞しくなった神官長様も精悍な印象でとってもカッコイイ。はっきり言って眼福だ。
街で子供やご年配の方と話している神官長様は相変わらず穏やかで柔和だけれど、旅の途中で魔物を聖杖一本で簡単に撃退する様は怖いくらいに容赦がない。ほぼ一撃で仕留めてるんじゃないだろうか。
一緒に旅をしていたときは、戦うのはユーリーン姫とコールマンが主だったから目立たなかったけれど、神官長様って強かったんだなぁ。まぁでも、腕に自信がなかったら、一人旅なんてできないのか。
ともあれ、神官長様が元気になって良かった。
一方で、こうなってくると心配なのはユーリーン姫だ。あんなに泣いていたけれど、問題は解決したのかな。
心配で寝る前にユーリーン姫の夢が見られますように、って幾度もお願いしたけれど、あれっきりユーリーン姫の夢を見ることはできていない。
察するに、前回はたまたまユーリーン姫が神官長様と一緒に居たから彼女の様子もわかっただけで、あたしの夢はきっと神官長様に勝手にフォーカスが合ってしまっているんだろう。
なんとも現金な話だ。
神官長様が元気になってくれたみたいに、ユーリーン姫の心も晴れるといいんだけれど。
そんなことを思いながら今日もあたしはカフェの開店準備をする。ここ一年で随分と常連さんも増えてきた。彼らが異世界で自分の仕事を全うしているのに負けないくらい、あたしも自分の仕事をしっかりとやらなくちゃ。
うちのコーヒーはおじいちゃんの趣味で、豆を挽くところから始めるそれなりに本格的な淹れ方だ。
最初はおじいちゃんの代の常連さんから「マズイ」「修行が足りん」と怒られてばっかりだったけど、このところは「上手になった」と褒めてくれることも多い。すでに孫を見るような目で見られている感じがするけど、そこはまぁ、ご愛敬ってことで。
朝食ラッシュが終わってからの午前中は、病院帰りのおじいちゃん、おばあちゃんがカウンターであたしを話し相手にまったりとコーヒーを楽しむ。そして12時を回ったら、今度は途端に周辺の会社から食を求めてさまようサラリーマンたちが集中するんだ。
その波を乗り切ってちょっと安堵のため息を漏らしたとき、なんの脈絡もなくあるアイテムが脳裏をよぎった。




