充実した日々
随分と、蒼が貯まってきたように思えます。
ユーリーン姫に泣きながら喝を入れられてから二週間、私は王都を離れ、街や村をたどって辺境へと向かっていました。
魔を浄化する旅でも、すべての街や村を巡れたわけではありません。より魔の濃い地域、魔が噴出して周囲に影響を与えている発生源、そんな場所を集中して巡っていたのです。
魔の根源は取り除かれ祓われていますが、魔によって傷つけられた人、荒れた土地、魔獣の生き残りはまだまだ各地に残っています。
街によって抱える問題の大小はありますが、悩みを一つも抱えていない村などありません。
私は、そのひとつひとつに丁寧に対応し、解決しては次の街を目指すという生活をしていました。これほどやりがいのある仕事はありません。
神官長としては国の中枢に身を置き、信仰のシンボルとして神殿をまとめるべきなのでしょうが、私はやはり、こうして人々と顔を合わせて女神様のお力を直に示し、人々を笑顔にすることが性に合っているようです。
日々にやりがいを感じ、一日の終わりに増えた蒼を喜ぶ。
その忙しくも充実した日々は私の心を癒やしていきます。アカリ、あなたに会える日も近いかも知れませんね。
そんな日々の中、私は不穏な噂を耳にしました。
「神官長様、北のほうへ向かうおつもりですか?」
「ええ、アンズポトという街があると聞きました。そのあたりはまだ伺っておりませんので」
「行かないほうがいいと思うがねぇ」
街の情報通だという八百屋の女将が不安そうに顔をしかめます。
「何か問題があるのですか?」
だとすれば、むしろ私は一刻も早くその街へ向かうべきでしょう。少しでも情報が欲しくて、私は彼女に質問で返します。
「あそこは滝の近くに作った街だからねぇ。崖と川に挟まれた立地だろう? 先だっての大雨で崖が崩れたらしいのさ」
「おおごとではないですか。けが人は出なかったのでしょうか」
「崖崩れでは出てないらしいけどねぇ。でも崩れた土砂が川を塞いで、街が水で浸かってるらしいよ」
「……!」
「そのせいで橋もやられちまって、もっと北の街とは行き来もできないって。こっちからも川をのぼって訪ねるのは難しいようだよ」
「陸路は残っているのですね?」
「でも、野盗がわんさか出るっていうよ。神官長様、ひとりで旅してるんだろう? 危ないよ、神官長様が死んじまうようなことがあったら、この国のみんなが不安になるじゃないか」
心配してくださるのはありがたいのですが、そんな苦境にある街を放っておける筈がありません。私はその足で、そのままアンズポトの街へむけ、歩を進めました。




