私は、アカリをあきらめられない……!
「先日もコールマンに死にそうな顔をしていたと言われましたから、さすがに反省したのです」
「まあ、コールマンったらいつの間にかいい仕事をしていたのね」
「さすがオレ」
おどけたように言い合う二人に、私の心も軽くなります。
「それに、こんなていたらくでは女神エリュンヒルダ様に申し訳が立ちませんし、何よりアカリに合わせる顔がありません」
言った途端に、二人の顔が曇りました。まるで痛ましいものを見るように眉根を寄せて、悲しい顔で私を見ます。
「やっぱり、まだ吹っ切れていないのね、可哀想に」
「突然だったもんなぁ」
ユーリーン姫はハンカチで目頭を押さえ、コールマンは私に駆け寄り勇気づけるように肩や背中をバシバシと叩きます。力が強いので地味に痛いのですが。
「ねえ神官長、あなたの気持ちはこの一年で痛いほど分かっているわ。でもアカリは自分の意思で故郷に帰ったのですもの、思い続けてもつらいだけよ」
「そうだ、そもそもそんなに萎れるくらいならちゃんとつなぎ止めときゃ良かったんだよ」
コールマンの歯に衣きせぬ言葉に精神が削られます。まったくもってその通りで返す言葉もありません。ですが。
「女は吹っ切るの早いからな、アカリだってもう次に行ってらぁ。女はアカリだけじゃねえんだ、そろそろお前も次に行け、次に!」
「できません」
「てめえはまた、そういう……!」
「あんな方は後にも先にも一人だけです。私は、アカリをあきらめられない……!」
「ナフュール……!」
「待って」
なおも説得しようとするコールマンを、ユーリーン姫がおさえます。姫は私にゆっくりと近寄ると、なぐさめるように肩に手を置きます。
「アカリのこと、本当に大切に思ってくれているのね」
「姫……ええ、生涯ただひとりの人です」
「じゃあ、いつまでもウダウダしてるんじゃないわよ」
「は?」
急に姫の語気が荒くなって、驚いた私が顔を上げると……そこには、鬼神のような表情の姫がいました。
「もともとアカリはアンタが召喚したんでしょ! アンタならなんとかできるんじゃないの!?」
「ユーリーン、落ち着いて」
姫のあまりの急激な変化に一瞬固まってしまいましたが、そういえば姫は魔物と戦っているときはこういう気性のお方でした……。
「なによ! アンタがずっとつれない素振りでいるから、アカリがどんだけ悲しい思いしてたと思うの! そんなに好きなら、世界が違おうがなんだろうが、根性で連れ戻して来なさいよ!」
怒っているのに涙をぽろぽろとこぼしている姫の肩を、コールマンがそっと抱き寄せます。
「あー、悪りぃな。アカリが帰っちまって悲しいのは、お前だけじゃねえってことさ」




