小さな希望にもすがりたい
見る間に積もった淡雪に、手早くバニラアイスと甘くて食べやすいシロップ漬けのフルーツを盛った。あとは好みの蜜をかけるだけ。
目の前であっという間に出来上がるゴージャスなかき氷を、美女は驚きとともに見つめている。
「なんと美しい……」
「あのね、病気が治るかはわからない。でもこの氷菓子を持ち帰れば、タオラン様が喜んでくれるのは確かだと思うよ」
「このように美しい氷菓など、妾でも目にしたことはない。たしかにさぞや喜ぶであろう」
タオラン様の喜ぶ顔でも想像したんだろう、美女の目尻が嬉しそうに下がった。そして、すぐにその笑みは寂しそうな色を帯びる。
「……そうじゃな、せめてあの子が望む物を」
そんな悲しい顔しないでって慰めたいけど、簡単な言葉で元気が出るようなお手軽な状況じゃない。だからこそ少しでもタオラン様が喜ぶようにしてあげたい、そう思った。
「以前タオラン様が食べたことがある氷菓子ってどんな色だったんですか? 私の世界では、氷菓子って蜜とか甘いもので味付けして食べるものなんです」
様々な色の蜜を美女の目の前に並べたら、「妾の世界では、このように鮮やかな色の蜜などない。樹木から採集されるものゆえ、この薄布のような色味じゃ」と返された。
美女さんが指す薄布ってパールピンクだよね。それはそれで可愛い色かも知れない。いちご味と透明なみぞれシロップを混ぜたら程よい色になるんじゃないかな。
その樹液の味までもは再現できないけれど、色くらいならきっと似通ったものが作れるだろう。
「じゃがその鮮やかな花のような色も麗しいがの」
「それでもいいですよ。この中のどれかを使うこともできますし、思い出の色をできるだけ再現することもできます。どうします?」
蜜の色でもイメージがごろっと変わるのがかき氷だ。できるだけ希望に添った仕上がりにしたい。
少しだけ考えて、美女は少しだけ口元を緩めた。
「この薄布に近しい色にしてたもれ」
「頑張ります」
「頼むぞ、妾は……タオランの喜ぶ顔が見たい」
手早く蜜を混ぜて、できるだけパールピンクに近い色を再現する。蜜の色が淡いからか、盛られたアイスとフルーツが際立って見える。
これでタオラン様が、少しでも元気になってくれれば……そう願わずにいられない。
「あの、アイスやフルーツは栄養価も高いから体が弱っているときにいいって聞いたことがあるの。これで少しでも滋養がつくといいのだけれど」
「そうか、ありがたい。……今はわずかな希望にもすがりたい思いじゃ」
美女の感情を抑えた声が余計につらい。祈ることくらいしかできないから、私はかき氷に一生懸命に祈りを込めた。
「そうですよね……どうか、どうかタオラン様に幸運が訪れますように」
「異界の娘よ、深い心遣い感謝する」
かき氷を手に、美女は深々と頭を垂れた。そしてそのまま一番奥の席から光に溶けるように消えていく。
その姿を見送りながら、私は祈り続ける。
異世界のお導きは結果が見えないことがとても多い。タオラン様が喜んでくれたのか、もしかしたら快方に向かったりするのか、想像することしかできない。
それでも、界を越えて訪れたからには、やっぱり幸せになって欲しい。
どうか、彼女たちが笑顔で居られますように。




