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出戻り聖女の忘れられない恋  作者: 真弓りの


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30/103

たとえ魔の使いであっても、妾は

誰かを探しているらしい美女の必死な表情に、私はしばらく傍観を決め込むことにした。


多分落ち着くまでは、何か声をかけても耳に入るまい。


ここに来る人は、「異世界に行く」なんて理解せずに転送されてきた人がほとんどだ。何か問題を抱えていて、状況を打開したくて強く強く神に祈ったらいつのまにかここにいた、なんて話す人が多いから、きっと神への祈りがキーになっているんだろう。


私はちょっと離れた席に座り、彼女が落ち着くのをじっと待つ。


彼女がこの場から逃げだそうとしたところで、ドア類にはすべて鍵がかけてある。混乱のさなか見知らぬ世界の鍵をすんなり開けることが出来るような人はものすごく稀だ。だからこそ安心して見守れる。


ひとしきり混乱して、取り乱して泣いた後、彼女はようやく静かになった。



「あの……落ち着きましたでしょうか」


「……お主は、何者じゃ。妾をどうするつもりかえ?」



やっと話を聞く気になったらしい美女に、私は一通りの説明を加え、彼女の反応を待つ。異世界だの手助けする品を与える場所だの急に言われても、一瞬で飲み込むことができる人なんて稀だ。


彼女が自分の中で事態を咀嚼するのをゆっくり待つつもりで腰を据えたけれど、彼女は意外とすぐに小さな声でこう呟いた。



「にわかには信じがたいことじゃ」


「ですよね」


「じゃが、あの子のためになるのであれば、お主がたとえ魔の使いであっても、妾は……」



彼女の思い詰めたような表情に、私も一瞬で背筋が伸びた。そうだよね、神様が手助けをしたくなるくらい大変な状況だからここまで転送されてくるんだもんね。


そして、未だかつて助けることを躊躇するような案件は発生したことがない。私は、まずは彼女が抱えている問題をしっかりと聞くことにした。



「この場所に来る前、貴女は何かを強く強く念じませんでしたか?」


「願った……。タオラン……我が子が氷菓子を欲しがって……せめて最期に、望みを叶えてやりたいと」


「最期?」



不穏な言葉が耳に残って、思わず聞き返す。



「流行病で、薬師ももう手の施しようがないと言うての。高熱に浮かされておるゆえ、冷たい物を欲しているのであろう。じゃがこの時期では氷など妾でも手に入らぬ」



まさか、命の瀬戸際にいる子供のための願いだったなんて……!


そんなこととも知らず、美女の混乱が落ちつくのを待とう、なんて悠長に構えていた自分をぶっとばしてやりたい。



「我が子の最期の望みすらかなえられぬとは……妾は自分が情けない」

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『出戻り聖女の忘れられない恋』
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