やっとお前らしくなったじゃねえか
眠りを深くするためにありとあらゆることをしたおかげでしょうか、このところ眠りが深くなった気がします。
アカリの夢を見る頻度が少なくなって、ふんわりと短い時間しか見ることができないのは少し寂しくもありますが、笑顔で頑張っているアカリが垣間見えるくらいがむしろ安心できていいような気もします。
今日もアカリが穏やかに笑っていた顔だけを記憶にとどめて朝を迎えたからでしょう、すこぶる体調がいいのです。
随分と蒼がたまってきた聖杖を手に、私は馬を駆って少し遠方の村まで出向きました。
「神官長様ー!!!」
「おお、ありがたいことだ、神の御使いがおいでになった」
私の姿を見るなり村の人々が集いますが、以前ほど生活は困窮しておらず大きな悩みを抱えて相談に来る方も随分と減ってきたようです。
魔が払われたことで人々の心も落ち着き、また現実的に作物の実りが良くなったことで生活も潤うようになってきたのでしょう。人々の心身が豊かになっていく様を見るのは、私にとって何よりも尊いものです。
「おう、ナフュール! 来てたのか」
いきなり名を呼ばれ驚いて振り返ると、そこには毛並みの良い栗毛の馬が。人なつっこく体を寄せてくる馬を撫でながら馬上を見れば、案の定、聖騎士のコールマンが私を見下ろしています。
そういえば私をこんな風に呼ぶのは、身分を歯牙にもかけないおおらかな性格の貴方だけでしたね。
「視察ですか?」
「ああ、ユーリーンも来てるぞ。この辺も豊かになったな」
次代の王室をになっていく二人は、公務の合間を縫ってはこうして街をめぐって視察を続けているのでしょう。彼らは旅の間から、自らの目と体で体験することを重視する人たちでした。
「ええ、もう王都に近い街や村はおおむね平穏を取り戻しているようです」
神官長という身分もあって、近隣の町や村が落ち着くまでは、王都を中心に活動して欲しいとユーリーン姫から請われていましたが、そろそろここを離れてもいいときが来たのかも知れません。
「そろそろ、もっと遠方の街や村へ足を伸ばす時期が来たのかも知れませんね」
私がそう言うと、コールマンは白い歯を見せて朗らかに笑いました。
「やっとお前らしくなったじゃねえか!」
「えっ……」
「アカリが帰っちまってから、お前ときたら今にも死ぬんじゃねえかみたいな生っ白い顔してるから、ユーリーンがどれだけ気をもんだか」
「そ、そんなに酷かったでしょうか……」
大きく頷かれて、恥ずかしいやら情けないやら……神の徒としてあるまじき事です。
私は深く反省しました。




