あの人が、心から笑えればいいのに
美羽ちゃん、可愛かったなあ。
今日の一日を思い出しながらベッドに入る。
バツが悪そうに「ごめんなさい」して、最後ははにかんだ笑顔を見せてくれた美羽ちゃんは、パパさんとママさんにはさまれて、幸せそうに帰っていった。
どうなる事かと思ったけど、美羽ちゃん、幸せになれるといいな。
そう願いながら、あたしはゆっくりと眠りに落ちていった。
ああ。
ああ、また。夢を見ている。
愛しの神官長様は、今日も慈愛に富んだ優しい笑顔で小さな子供を、力の弱ったご老人を、病に倒れた病人を助けている。
神官長様の凄いところは、助けすぎないところだ。
例えば悩みを聞く事だって加減って難しい。助言が必要な事もあれば、ただ話を聞くだけでいいって事もある。
それと一緒で病の治癒にも加減があるのだ。
体の欠損を補完する程の癒しの力を行使する事もあれば、お説教で済ませる事も、本人が病の源ではない場合は根源と向き合う事もある。
その瞬間に病を完治させる事が治癒ではないと感じさせてくれたのは神官長様だった。
夢の中で、場面が変わる。
ああ、ここは……多分、神官長様の部屋。
この部屋の場面になると、いつもあたしは気持ちが落ち着かなくなってしまう。だって、なんだかのぞき見してるような気持ちになって、申し訳ないんだもの。
自室にいる神官長様は、今日も一心に聖杖を見つめている。
あの聖杖を女神様から賜った時には気づかなかったけれど、夢で見る度にあまりにも神官長様が熱心にこの聖杖を見つめるものだから気づいてしまった。
この聖杖って、真ん中の宝石っぽいのがだんだん青くなってきてるよね。
神官長様がどうしてこんなにも聖杖を見つめているのか、どうしてこの宝石が青くなっていくのか、あたしにはわからないけど、それでも神官長様がこの宝石の青さが増えることを楽しみにしていることだけは伝わってきた。
ああ、早くもっと青くなればいい。
だってずっと神官長様は悲しい顔してるの。
部屋の外ではいつだって柔和な顔で、前と変わらないアルカイックスマイルを崩さない。だから、誰も神官長様がこんなにも悲しい顔をするなんてこと、知らないに違いない。
それでもひとたび部屋に戻ると、神官長様はこうして聖杖を眺めて切なげに溜息をつくんだ。
それが可哀想で可哀想で。
訳が分からないながらに、あたしは聖杖の宝石が青くなっていくのを願っていた。
あの宝石が完全に青で染まれば、神官長様は笑ってくれるのだろうか。
夢でもいい。
あの人が心から笑ってくれればいいのに。
そう願わずにはいられなかった。




