【SS】アカリパパ視点: 僕らが親になればいい
嬉しそうに微笑むナフュールさんの横で、アカリが幸せそうに彼を見上げる。
都会からこっちに戻ってきた時は会社が突然倒産した上に恋人にも振られた、なんて言って酷い顔をしてたのにいつの間にこんなに優しく満ち足りたような顔をするようになったのか。
「アカリったら、本当ナフュールさんのこと、好きなのねぇ……」
微笑み合う二人を見て、ほのかさんが感慨深そうに呟いた。それは僕もそう思う。
彼が彼らの世界の都合で、了承も得ずにアカリを違う世界へ引き込み、危険な旅に同行させた事に憤りや理不尽さを感じるのは否めない。それでも、そこに至るまでの彼の葛藤と覚悟を聞けば、声高に責める気にはなれなかった。
なにより一年もの時をその世界で過ごし、ナフュールさん達の人柄に触れてきたアカリがこんな顔で笑えるのなら、僕はもうそれでいい。
ほのかさんが言うように、きっと常識が違う事で軋轢がないとは言えないだろう。それでも、アカリもナフュールさんもそれを乗り越えて惹かれあったのだ。
僕らも驚きすぎず、決めつけすぎずに、二人を見守っていくしかないじゃないか。
「そういえばナフュールさんって、もうこの世界でお出かけとかはしたのかしら」
唐突にほのかさんがそんな事を言い出して、ナフュールさんも真面目で答える。
「この近所なら。ゴミ出しくらいはできるようになりました」
思わず吹いた。こんな人がゴミ出ししてたら、三度見くらいする自信がある。
「今日はまだ時間があるのかしら。せっかくだから四人で一緒にお出かけしない? アカリはあっちの世界を色々見て回ったかも知れないけど、ナフュールさんはこっちの世界をあんまり知らないんでしょ? 旅に役立つ知識もあるかもしれないじゃない」
その発想はなかった。
僕はナフュールさんとの違いを受け入れよう、なんて思っていたけど、ほのかさんはもっと積極的に彼との交流を通して分かり合う方法を考えていたらしい。
「お父さん行きつけのお店で、素敵な服を買ってあげるわよ」
「お父さんもお母さんもセンスいいもんね。どうしよう、ナフュールさんがこれ以上かっこよくなっちゃったら尊すぎて目が潰れちゃう」
「それはいけません……!」
「あ、比喩表現だから大丈夫! ちょっと天然で可愛いナフュールさんも大好きです!」
力強く言い切るアカリに、ナフュールさんが苦笑しながら「私もアカリが大好きですよ」とはにかんで答える。
異界の人はスマートに愛を伝えるなぁ、なんて思っていたけれど、どう考えてもアカリの押しが強い気がする。
ああ、アカリはほのかさんにそっくりなんだなぁ、なんてしみじみと思った。
「さぁ、行こうか。ちなみにナフュールさんは酒は飲めるのかい?」
立ち上がりながら聞いてみると、ナフュールさんはちょっと小首を傾げる。
「強いものはあまり得意ではないのですが、嗜む程度なら」
「そうかそうか、じゃあ酒でも飯でも菓子でもいいや。なんか色々つまみながら語ろうじゃないか。僕も息子ができて嬉しいよ」
僕よりもずっと背が高くて威厳がある息子だが、と心の中で一人ごちる。
アカリとほのかさんがどこに行こうかとわいわい作戦会議を練る中、僕とナフュールさんは穏やかに見守るのみだ。
その空気感が意外にも心地よくて、僕は新しい息子との静かな時間を楽しんでいた。
これにてSSも完結です!
このお話はアカリのカフェに訪れた人たちにもそれぞで思い入れがあって楽しくかけました。
またSSを書くかもなので、その時はよろしくお願いします!