第49話 エピローグ①
軍用ジープで帰っていくフライングジャガーズを見送った後、俺たちとナインは夕闇のグラウンドに倒れ込んだ。
「もう動けないわ……」
「あたしもよ……」
「疲れたよー!」
「冥子お前あのとき……」
俺はサヨナラの場面を思い出していた。ジョーの起こした土煙で視界のきかない本塁。確実にサヨナラのランナーを刺せたであろう好返球。激しい接触プレイ。消えたボール。そして――
――スリの天才、不動冥子。
「な、華麗なホームインだっただろ」
冥子のいたずらっぽいウインクに、俺は口を噤んだ。そもそも自分がチームに内緒で不正を働いた以上、冥子のプレイを批判できない。
言いよどんでいると、冥子がドスの効いた低音で静かに凄んできた。
「それともあたしがズルしたとでも言うんか? 仮に《《ミットからボールが飛び出たとしても》》、ルールで禁止されてない普通のクロスプレーだろうが。あ?」
「ぐぬぬ……正確にいえば2018年ではメジャー・NPBともにコリジョンルールといってだな……」
「ごちゃごちゃうるせえ! ま、あたしはただただまじめにホームインしただけどな」
確かにその通りだ。現代野球でも、時として相手に大ケガを負わせる走塁テクニック『ゲッツー崩し』やキャッチャーへのタックルがある程度認められている以上、冥子のプレーをルール違反と断罪することは難しい。そもそも完全な“クロ”であるスピットボールを仕込んだ俺など批判するのもはばかられるレベルだ。
「エージ」
とっぷりと暮れたグラウンドに、渚のひときわ大きな声が響いた。
「なんだ、渚」
「約束、守ってくれてありがとう」
渚が、俺の右手をしっかりと握りしめた。