表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したので、現代野球の知識を駆使して無双するつもりだったのに女子しかいません!  作者: とんこつ
百合ケ丘サンライズvsフライングジャガーズ
48/53

第46話 vsジャガーズ【最終回 裏】③

「渚――――」


 声をかけようとして俺は口をつぐんだ。何と声をかければいい?


 さららのスクイズ失敗で、すでに手の内を敵に明かしてしまっている。その上ダガーJにはここぞというときの豪速球を持っている。ここで同じ手を繰り返すのは愚策だ。ならばヒッティングか? いや、彼女は今日ノーヒット。しかし渚の次は打撃には期待ができない八重ちゃんだ。いったいどうすれば……


「タイムだタイム!」


 静寂を破ったのは二塁ベース上の冥子だった。彼女は審判にタイムをかけると、打席の渚にかけよる。


「おまえ、手ズタボロだろ」


 冥子が自分の包帯をほどき、打席の渚の手のひらに巻いた。渚の目が見開かれる。


「そんなになるまでよく頑張ったな」


 キャップの上から渚の頭にポン、と手を置いて。


「――あとは頼んだぜ、渚。()()()()()()()()()()()()。そうだろ、エージ」


 三塁ベース上のジョーも、打席の渚を見つめて静かに頷いた。


「渚、冥子、ジョー……」


「エージ」


「…………なんだ、渚」


「私、エージと、みんなと野球ができて楽しかったよ」


 両手をバンテージでぐるぐる巻きにした渚がボックスに入る。


 みんな、頼む。俺は拳を握りしめた。もう俺が出すべきサインなどない。冥子の言うとおり、渚に託すのみだ。


 ――しかし。


 彼女のバッティングセンスは決して悪くはない。しかし、今日は一本のヒットも打てていないのも事実だ。フルイニングの全力投球が彼女のスタミナを空にさせているのは明白だ。


 俺はダイヤモンドに視線をやった。三塁走者のジョーはベースにほぼベタづき。打席の渚もバットを寝かせる気配はない。


 つまり、連続スクイズはない。狙いはヒットのみだ。俺は頭を抱えた。


(あくまでも、強行策で点を奪うつもりなのか)


 俺の脳裏をよぎったのは、1998年サッカーワールドカップアメリカ大会のアジア予選。90分終了時のリードを守りきれず、残り数分で失点を許した日本代表は本大会出場権をあと一歩で逃す。


 後に“ドーハの悲劇”と呼ばれるこの試合は、ロスタイムの時間稼ぎをよしとせず正攻法に拘った日本人の精神性が敗因の一つともいわれている。戦後50年後経っても完全には払拭できなかった呪縛を、今の彼女たちに捨てろと説いても難しい話だ。




 しかし九回裏、1アウト二塁三塁。この試合初めての絶好の機会、そして今追いつかないともう“次”はない。――しかし、彼女たちの決断ならば仕方がない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ