第41話 vsジャガーズ【最終回 表】②
「“カラテガール”、ちょっと待て」
返球しようとしたさららを、アレックスが制した。そして、その手から無理やり白球を奪い取って眉をひそめる。
「……なんだこれは。おまえたちはこんなになるまで“サジタリウス”に投げさせていたのか?」
アレックスの黒い瞳の先には、血染めのボール。
全力投球を続けた渚の指はもう限界だった。
「――ッ! 私たちが大切なものを守らないといけないの。あなたたちにはわからないでしょうけど」
「ああ、わからないな。理解できない」
アレックスが審判にボールの交換を頼む。ジャガーズベンチから真新しいボールが審判の手にわたった。それを受け取ったアレックスが渚へと放ってやる。
「ジャガーズには何十ダースもボールがある。ひとつ5ドル、真新しい革に包まれた新品の硬球がな。公式試合なんかじゃない、すべて“レジャー”に使うためだ」
「……それがどうかしたのよ?」
「“精神力”だけでは決して超えられない壁は、この世界に確かに存在する。それは物量であり、強靭な肉体であり、富だ――それはお前たち日本人がよく知っているだろ?」
黙り込むさらら。
「今からそれをお嬢ちゃんたちに教えてやる」
力なく投じられた2球目。アレックスの豪腕が、微かに見えていた俺たちの希望を打ち砕いた。もはやまったく変化しなくなったSFFを貫く、残酷な衝突音。
「――こういうことだ、サジタリウス」
インパクトの瞬間、サンライズベンチは誰も言葉を発しなかった。渚の112球目をいとも簡単にとらえた飛球は、スタヂアム最上段を軽く越え夕焼けの市街地へと消えていく。
3-2。本日2本目となる勝ち越しの場外弾。マウンドの渚がゆっくりと膝をついた。
「認めよう。確かにおまえたちは優秀な戦士だ。そこらへんの男よりもずっとな」
打球の行方を確認したアレックスは、「フン」と鼻を鳴らしバットを投げ捨て悠然と歩きだす。
「しかし、所詮は“女の子”にすぎない」
ジャガーズベンチのペニー少佐が、安堵したようにパイプから煙を吐き出した。
「アレックスめ、心配させおって」




