第32話 vsジャガーズ【3回表】スコアレス
三回。
イニング表では、不正投球を有効に使った渚&ジョーバッテリーがまたしても三者凡退で切り抜けた。
「これで9人連続……打者一巡を完全投球じゃの!」興奮して顔を上気させる所長。
「ああ」俺も握った手に力が込もる。依然スコアレスだが、ヒットはサンライズの2本に対しジャガーズはゼロ。先ほどのトリプルプレーによる沈鬱なムードは完全に一掃されている。完全にサンライズペースの試合運びになっているのは間違いなかった。
「八重ちゃん、思い切っていけ!」
「…………」
この流れのままなんとしても先制点がほしい。先頭打者の八重桜に声をかけたとき。
「監督、ちょっといいか?」
冥子が俺の肩を叩いた。
「ん、どうした? 作戦の確認か?」俺は振り返って尋ねる。
「うん」珍しく、素直にうなずく冥子。
「ただ――ちょっとここじゃ話しづらい。こっちに来てくれるか?」
「え、でも今攻撃中だし」
「ちょっと、こっちに来てくれるか?」
静かに、しかし有無を言わさぬ口調で冥子は繰り返した。親指はベンチ裏の廊下を指している。
「――わかったよ」
彼女がここまで言うからには何か理由があるのだろう。さては、どこかケガしたのだろうか。冥子のことだ、皆の前で弱いところは見せたくないのだろう――そう思った俺は、言われたとおりベンチから腰を上げた。




