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第21話 百合ケ丘サンライズ

「ということで、アメリカ軍駐日空軍新東都支部――フライング・ジャガーズと戦うことになりました」


 ナインと所長を集め、俺はこわごわ宣言した。


「ごめん、みんな。私のせいね」


 ゆっくりと口を開いたジョーが漏らしたのは、彼女に似つかわしくない弱々しい謝罪の言葉。


「思い上がってんじゃねえよ、ジョー!」


 冥子が下を向いたまま大声を上げた。双子の肩がびくっと震える。


「おまえのせいじゃねーよ。あたしたちみんな、あいつらにはトサカには来てやがんだ」


 野球でぶっつぶせるなら願ったりだぜ、と冥子が八重歯をのぞかせニッと笑う。


「冥子の言うとおりだわ」と渚。


「別にGHQの人間だからって、かつて戦争した相手の国の人だからって、全員が全員嫌いなわけじゃないわ。私だって彼らに弓を取り上げられたときはこれからどうやって生きていこうって絶望したけれど――」


 渚が言葉を切り、異国の少女を見つめた。申し訳なさそうにうつむくジョー。


「でも、かわりに野球を教えてもらったんだもん。野球のおかげで、百合ケ丘のみんなと、ジョーと、エージと、冥子にも出会えたんだ。だから――」


「仲間を傷つけようとしたあいつらは許せないわ」


 一文字一文字区切るように、さららが渚の言葉を引き継いだ。


「――――ねえ。いっこ聞いてもいい?」


 のんびりした声を上げたのは紫電キリエだった。


「ああ、いいぞ。なんでも聞いてくれ。俺も試合当日までできるかぎり相手の情報収集と――」


「『ジャガーズ』って、なあに?」


「いやいやそ・こ・か・よ!」


「あたしもそれ気になったな」


「わたくしもですわよ」


「アメリカの言葉だよね? ねえジョー、ジャガーってなに?」


 皆の視線に圧倒され、困惑しながらもジョーが口を開く。


「ええっとジャガーっていうのはね、ネコ科の猛獣よ。日本でいう虎みたいなものね。合衆国(ステイツ)では、自分のチームに強そうなニックネーム――“あだ名”をつけるの」


 俺はペニー少佐やダガーJの肩につけられた、猛獣のワッペンを思い出した。


「たしかに、冥子も“ゼロファイター”とかジョーも“アンルーリ……もがもが」


「その名を呼ばないでっていったでしょ。そうね、『ジャガーズ』はもともと駐日空軍新東都支部の愛称だから、それをそのまま使ってるんだろうけど」


 ジョーが黒板に大きな猛獣の絵を描きながら説明する。双子が目を輝かせた。


「「へえ、かっこういいねえ!」 」


 今の日本では、スポーツチームに愛称をつけるという感覚はあまり一般的ではないのだろう。俺は納得して、無邪気にはしゃぐふたりを見つめた。元いた世界でも、英名の愛称を持つチームは戦前にもいくつか存在していたが、戦時下の敵性語対策により和名での呼称を余儀なくされていたという。


「そうだ! あたしらのチームにも“あだ名”が欲しくねーか?」


 冥子が皆を見渡して声を上げた


「わたくしも賛成よ」


 人さし指を唇に当て考え込んでいた麗麗華も同意する。


「ね、ジョーさんに考えてもらいましょうよ。いい考えと思いませんこと?」


「そうだな」珍しく麗麗華と冥子が意気投合。


「ジョー、いっちょハイカラなやつを頼むぜ」


「ええ? 私が決めちゃっていいのかな、そんな大切なこと」


 困惑顔で視線をよこしたジョーに、俺は大きく頷いた。ナインは喜々とした表情で彼女を見つめている。


「ああ、みんながそう言ってんだからジョーが決めてくれよ。この中で英語わかるのジョーしかいないんだからさ。しかもこの勝負を取ってきたのはほかでもないおまえなんだ」


「Hmm……」


 ジョーは窓の外、夕暮れの空を見上げながらしばし黙りこんだ。西日が金色の睫を照らし、頬に影を落としている。


「そうね……ジャパンって国名は日ノ本(ひのもと)……“日出づる国”って意味よね。“日の出”って意味の“Sunrise”はどうかしら? サンライズ――『百合ケ丘サンライズ』よ」


 ジョーがナインの顔を順番に見つめた。 満面の笑みで頷く8人の少女たち。


「サンライズ……すてきね」渚が静かにつぶやく。


「とっても、きれいな名前」


「「さんらいず……!」」


 手を取り合ってうっとりする双子。


「あたしも気に入ったぜ。なかなかいいセンスしてるじゃねえか、ジョー!」


「百合ケ丘サンライズ最初で最後の試合にならないよう、とびきり頑張らないといけませんわね」


 縁起でもないこと言ってんじゃねえ、と冥子が麗麗華の肩をはたいた。

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