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第13話 未来戦術『ジャイロ』

「ほぅ……」


 所長が大きく息を吐いた。


「いいか? これが渚のピッチングの肝だ」


 ナインの視線は俺の手元のスマホ。先ほどの投球練習中、さららの後ろから審判目線で渚のボールをスローモーション撮影したものだ。ボールには墨汁で印がつけてある。


「まずこっちを見てくれ。これが普通の直球な」

 俺が動画を再生する。スローモーションで放たれるボール。指先でバックスピンがかけられ、ボールにつけられた印がくるくると進行方向と逆に回転している。


「なんだこりゃあ……」


「これがジャパンの技術力!? まだこんなものを隠し持っていたのね……」初めて見る冥子とジョーはスマホに興味津々だ。


「そしてこれが」俺は次の動画を再生する。


「渚のオリジナル変化球。『ナギサ1号』とでも名づけようか」


 投じられたボールは、先ほどと同じ直球の軌道。しかし、ボールにつけられた墨汁は微動だにしない。


「これはどういうこと?」当の本人、渚も首を傾げる。


「ストレート、つまり『直球』っていうのは通常進行方向に対して逆の回転――バックスピンがかかっているんだ。スピンがかかればかかるほど、重力に逆らう揚力が生まれる。


 もちろん揚力といっても“浮く”なんてことはありえないが、それでも通常の自由落下よりも下向きの力は小さい。よって打者からすれば、HOP-UPして“見える”わけだな」


 俺はナインを見渡し、地面に図を描きつつ説明する。


「しかし、この2球目。ボールにつけた墨汁の印はまったく回転していないだろ? つまりボールは縦回転ではなく、進行方向に対して横回転しているということだ」


「銃弾みてえに、ってことか?」と冥子。麗麗華が眉をしかめる。


「そのとおり。横回転というより、より正確にいえば螺旋回転……まさに銃弾だな」


 俺のいた世界で言うなら『ジャイロボール』。初めて彼女の投球を見たときに変わった軌道だと思っていたが、まさかジャイロボーラーがこの世界にいるとは思わなかった。弓道をベースとした特異なフォームがこの唯一無二の回転を生んでいるのだろう。本人すら気がつかないうちに。


 螺旋回転で進む『ジャイロボール』は、ストレートと同等の速度を保つ一方、バックスピン――マグヌス力による揚力を得られない。よってベース付近で球速に落下し、速度を保ったまま鋭く下方向に落ちる。相当の観察眼と理論がなければ、ベンチはもとよりバッターでさえ直球と見分けられないはずだ。6人野手というハンデを背負ってもなんとか試合を成立させていたのは、渚の『ジャイロボール』のおかげだったというわけだ。


「なんだかすごーい!」と顔を輝かせる双子。


「このように、この『スマートフォン』を使って渚にはピッチングを磨いてもらう」


 俺は渚にスマホを手渡した。スマホの電池は貴重だが、こういうときこそ惜しまず使うべきだ。なにせ次の試合に俺のクビがかかっているのだから。


「エージ、私たちにももっと教えてほしいですわ!」麗麗華の熱っぽい視線。


「そうだぜ、渚ばっかりズルくねえか?」と冥子が凄む。


「わかったわかった」ナインの熱意に気圧された俺はあわてて手で制した。

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