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第12話 百合ケ丘ナイン

「ここだオラァ!」


 冥子の豪快なスイングは渚の直球を難なくとらえ、左中間をまっぷたつに割った。麗麗華の返球をあざ笑うかのように、俊足を飛ばして三塁を陥れる。


「すげーな冥子。そんなスイングいつ練習したんだよ? 野球やってたのか?」


 素直に感心する俺に、へへーん、と冥子は得意げに胸を張る。


「ナメないでよ。ハジキに比べればあんなの止まって見えるっての」


 冗談とも本気ともつかぬ彼女の言に、俺はあいまいにうなずく。何せ、初めてバットを目にしたとき「これで所長をぶん殴ればいいのか!?」と聞いた冥子である。わずか1週間での適応力に俺は舌を巻いた。


「オラオラァ!」「甘ェ!」「シバきあげたるわ!」


 バッティングピッチャーとして打ち頃のボールを投げているとはいえ、冥子は渚のほぼ全球の芯をとらえ外野まで弾き飛ばす。確かにこの動体視力は、銃弾飛び交う暗黒街とやら鍛えられたものかもしれない。スイングのたびに銀髪が可憐に舞った。


「なかなかセンがいいじゃない、ね?」


 汗をぬぐったマウンドの渚が、ホームのさららに声をかける。


「どう、私のスカウティングもなかなかでしょ」ショートで誇らしげなジョー。


「頭数にはなるかしらね。素行のほうは私が叩き直してあげるわ」


 さららもまんざらではなさそうだ。


 唯一の穴だった三塁手に収まった冥子は、守備練習でも野性的センスを発揮する。


「サード!」ノッカーの渚が放った痛烈な打球を――


「オラァ!」


 派手な音とともに白球が冥子の足元で静止した。


「ちょっとメーコ!? 大丈夫なの!?」


 ジョーが目を丸くするのも当然だ。冥子はなんと、打球を素手ではたき落としたのである。


(本人に自覚はないだろうが……これは2018年のメジャーリーグでいうところの『ベアハンドキャッチ』じゃねえか。60年後の戦術だぞ?)

「ちきしょー、いってーなー!」


 悪態をつきながら、ボールを拾い上げファーストへ送球。


「グラブで捕りなさいよ、そのために左手につけてんだから」イテテと右手を振りながら顔をしかめる冥子にジョーは呆れ顔だ。


「あ、そっか」


 今気がついた、というように視線を落とす冥子。


「渚、まだまだ来いよ!」


 冥子の猛々しい声がグラウンドに響く。その後も彼女はボールを体にぶち当てながらも、後ろに逸らした球は一球もなかった。


 外野へ逸らすことを怖れずに打者走者のアウトを最優先するジョー、一方とにもかくにもボールを内野で止めようとする冥子の守備。野球経験の多寡を差し引いてもなかなか面白い好対照だ。


「冥子、痛くないのー?」外野の双子が心配したように冥子にたずねる。


「こんなん蚊に刺された程度のもんだぜ! 暗黒街の鉛玉に比べりゃ――」


「「怖いよう!」」抱き合う双子。


「不動冥子……か」


 俺は縦横無尽にグラウンドを駆ける冥子を見つめながら呟いた。セオリーを知らないがゆえの野性的センスと、動物的な反応速度。つるちゃんに次ぐ俊足。そして並外れた動体視力は守備でも打撃でもいかんなく発揮されていた。


(暗黒街とやらで生き抜いてきた実力は並大抵じゃないってことか)


 痛烈な打球処理が求められるサードを任せるのに、彼女の負けん気の強さはうってつけだろう。ほぼ未経験者でありながらこの成長スピードは驚異的で、これからののびしろにも期待が持てそうだ。


「ほい・こー・ろー!」


 大声でタイミングをとりながら長打を繰り出すのはかめちゃん。双子「二神姉妹」の妹、二神おかめのほうである。


「うおー、飛ばすもんだなー」


 かめちゃんの打球には、サード守備につく冥子もあんぐり口を開けている。


「ほいさー!」


 そしてフェンスギリギリの大飛球をダイビングキャッチしてみせるのは姉のつるちゃん。白いブレスレットがきらめく。


「あーん、捕られちゃった」「へっへー、まだまだ甘いねえ」


 双子でありながら個性のまったく異なる彼女たちも面白い存在だ。長打力には誰にもひけをとらない二神おかめと、打撃は非力ながらチームトップの俊足を誇る二神つるこ。チームの得点はふたりが主軸といっても過言ではない。 俺はキリエから預かった百合ケ丘繊維のデータとグラウンドのナインを代わる代わる見比べた。


「ほっほ、どうじゃエージ監督」


 グラウンドに出てきた所長が満足そうに目を細めた。


「ジョークンと冥子クンのおかげでやっと内野が埋まったわい」


「とりあえず9人はそろったからな。あとは練習と……」


 渚。二神姉妹。麗麗華。八重ちゃん。キリエ。剛力さらら。そしてジョー&冥子。


 俺は紙束から視線を上げる。


「いっちょ見せたりますか、俺の異世界人たるゆえんってやつを」

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