第十五話 ハル・ノート
一九四一年 九月二十八日
アメリカ合衆国政府は、日本が即時、謝罪と賠償に応じない場合、対日石油輸出禁止と在米日本資産の凍結を十月中には開始するという経済制裁を発表し、これ以上の日米交渉は行わないとした。さらに、欧州戦線での苦戦から是が非でもアメリカの連合国側への参戦を望む英蘭も、日本に文句など無かったが、テロ行為を国家ぐるみで行う野蛮な国だとして、このアメリカの経済制裁に同調した。
このアメリカの強固な姿勢に、日本政府は大慌てになった。なぜなら、日本は石油等の資源を史実よりかは自活出来るとしても、まだまだ輸入に頼っている部分が大きかったのだ。
この出来事を契機に日米関係は修復不可能なほど急速に冷え込み、両国の一部では開戦やむなしと言う声も少なからず出てきていた。しかし、近衛文麿首相は『対米交渉を根気強く継続する』として、戦争回避の道を模索すると発表した。
が、実際は水面下において、陸海軍大臣や参謀総長、軍令部総長からなる参謀委員会を召集し、戦備を整え始めて、有事に備えており、表と裏で全く逆の行動を開始していたのである。
そして、十月十四日に米英蘭は日本に対し経済制裁を発動させ、日本をジリジリと追い込んでいった。これに対して日本も在日米資産の凍結といった経済制裁を同時に発動した。
濡れ衣を負わされ、弁解も許されない、そんな過酷な状況に陥っても日本は同時多発テロとは無関係だと主張し、駐米大使を通じて何度も交渉を行った。
十一月に入ると、イギリスも国内の新聞が同時多発テロに関する情報を盛んに報道し始め、日本人は野蛮な人種と認識されるようになり、イギリス本土や植民地にある日本企業や商船に対する検閲が厳しくなって来て、ときたま衝突が起こるようになってきた。
こうして、日本と米英では互いが一歩も譲らず、交渉も平行線を辿っていきその先は戦争…?と囁き始めた十一月二十日、日本の粘り強い交渉が実を結んだのかアメリカ側から返答があったのだ。
コーデル・ハル国務長官から手渡されたこの交渉再開案は簡単にこういう内容であった。
・テロに関与していたと思われる日本人の即時引き渡し
・日本本土以外に進駐している日本軍の即時撤退
・南洋諸島の非武装化
・日米技術協定の締結
・貴国において発動されている経済制裁の解除
・米主導の日米合同捜査チームの結成
これが成されて初めて日本の同時多発テロの関与という方針を『見直し』交渉を再開する。
この交渉再開案はハル・ノートと呼ばれ、これではアメリカの言いなりであり、アメリカは日本を戦争に引きずり込む気だ、ということを確信した日本政府は、この交渉再開案を呑むためにはこちらの条件も呑んでもらいたい、と最終交渉再開案を二十六日に提示した。これは、日本はアメリカのいいなりには絶対にならないという決意も込められていた。
・両国の平等な日米合同捜査チームの結成
・アメリカの日本主導発言の撤回
・フィリピン、グアムからの即時撤退及び非武装化
・貴国において発動されている経済制裁の解除
・早期日米首脳会談の決定
・『見直し』ではなく『撤回する』
これを認め、ハル・ノートと同時進行でもよいので行動すること。だが、十二月八日午前零時までに返答が無い場合、我が日本国は日本において発生したテロをアメリカ主導で行われたとし、その報復及び自国存続防衛の為にそれ相応の行動を行う。
この最終交渉再開案はアメリカにおいても物議をかもし出したが、ルーズベルト大統領は返答はしないと発表して事実上の宣戦布告であるとした。
この発表を受けて世界に激震が走った。東洋の島国が大国アメリカに喧嘩を売ったのだから。これによって、日本の存続を賭けた戦いが十二月八日に始まることが決定した。
日本は統合参謀本部を設置し、対米戦の準備を本格的に開始し、陸軍の南方方面軍の編成を行い、連合艦隊司令長官の山本五十六は横須賀からある艦隊を出航させ、呉からは沖縄に向けて南洋方面攻略艦隊を出航させた。それに加えて、民間の商船を徴用し護衛空母に改装せんとする行動も開始し始めた。
アメリカはフィリピンを防衛している東洋艦隊に空母を派遣し戦力増強を狙い、ハワイのオアフ島には太平洋艦隊や海兵隊といった戦力を集めさせ、直ぐに出撃できる体制を整え始めた。
イギリスはシンガポールにプリンスオブウェールズといった新鋭戦艦を派遣し戦力増強にあたった。
韓国は日本との同盟に基づき、後方支援艦隊を編成、訓練に勤しみ始めた。
欧州では連合国とナチスとの戦い、太平洋では日米決戦、ここに第二次世界大戦の構図が出来上がりつつあった。
この構図を頭に思い浮かべ笑みをこぼしているのは、白い家に住んでいるルーズベルト大統領その人だった……
作者『もぅ、無理矢理です!!(笑)
すみません(汗)
ただ、遂にここまで来ました。長かったです。
もうちょいです。
頑張ります!
では
P.S.
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