第十四話 心構え
この話から少し書き方を変えます(あまり変わっていませんが)
日本・首相官邸
バンッ
木製の机を叩くと聞くことができる特有の鈍い音が部屋に響き渡る。その机を叩いた張本人は顔を赤らめ、何かを報告する為に来たと思われる若い秘書官の顔に数滴の唾がかかる。
「一体どうなっている!!」
首相官邸の一室にて、近衛文麿内閣総理大臣は一人憤慨していた。
なぜならこの時、近衛はアメリカにて発生した同時多発テロにおける、アメリカ政府側の発表に誤解があるとして、幾度となく交渉のテーブルに着くように促していた。そんな中で、今度は国内にて無差別テロが発生したからだ。
「アメリカの次は日本だと!?一体何処のどいつの仕業だ!!?」
近衛は手から血が出るのではないか、と思わせるくらい拳を握りしめながら丸刈りに丸眼鏡といった、いかにもという秘書官に問いただす。
「いえ、それが、まだ犯人を特定出来ていないと連絡が……マスコミの方は、アメリカの報復だ、とまくし立てています」
たじろきながらも、報告書をめくりながら、近衛に現状を説明していく。
「くそっ!!タイミングがよすぎるぞ!これでは……」
近衛はそこで口を閉ざした。『戦争』この単語を口にするのが恐ろしかったのだ。いくら日露戦争で勝利したといってもそれは、奇跡と言っても過言ではないくらいのものだったのだから。そんな日本が今度はアメリカと?そんなこと、想像もしたくなかったのだ。
アメリカで起こったテロは確実に無関係、だが日本で起こったテロにアメリカが関係していないとは言い切れない。戦争に引き込むのなら格好のネタになるからだ。
そういった脳内討論に決着を付けることなく、近衛は脳内のアドレナリンをなんとか沈めて黒革の少し硬い椅子に深く腰を沈めた。
「すまない。少し一人にしてくれ。それと明日の朝一番に閣僚を集めさせてくれ」
近衛は秘書官にそう告げて下げさせると、首を天井に向け、目を閉じ、これからの日本の行く末に想いを馳せるのであった。
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その後、閣僚達と話し合い、まずアメリカの誤解を解くことが先決とし話し合いに参加するように粘り強く交渉することに決まった。
しかし、日本政府が冷静に事を進めようとしても、国民はその姿勢に非難を浴びせるようになった。政府は弱腰だ、と。逆にアメリカでは、もっと強気に出なければ猿どもが図に乗るぞ、と、どんどん両国の国内世論は反米、反日へと傾いていった。
そして、日本で起こった同時多発テロが迷宮入りの様相を呈し、尚且つアメリカは聞く耳を持たないと来て、日本側はどんどん追い込まれていった。
こうなると、結果が出せない外交官達にもプレッシャーが降りかかってくる。そこで、運命の歯車が回り出す。
日本側の交渉団とアメリカ側の交渉団が食事をする、という所まで話を持って行くという所までは成功した。勿論非公式なのだが…
そこで、日本側の交渉団は政治で一番神経質に扱われる言葉というものを、間違った形で使ってしまった。
『今回の日本のテロにアメリカは関わってませんもんねぇ?』
笑いが飛び交っていた。国内世論が互いに憎しみあっていても、この場、この時間だけは和んでいた。互いに冗談も言い合った。だから、軽い気持ちでこの言葉が自然に出たのだ。だが、それがアメリカ側の交渉団には爆弾の起爆スイッチだった。一気に場の空気が冷たくなった。その後の事は言わずもなが、想像はつくだろう。
この事はルーズベルトの耳にまで入り、日本を非難する演説を大々的に行った。
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「あ〜あ、こりゃ戦争になるかもなぁ」
新聞を広げ、あたかも他人事のようにポツリと結城は呟いた。
ここは結城が最近ハマっていて、山本長官や美桜にこき使われる事によって生まれる疲れを取ることができて、ブレイクコーヒーを楽しめる喫茶店であり、すこし古いアンティークの家具が置かれ、BGMにジャズなんかが流れているコジャレた所だ。
「ふむ、そうだな。大変な事になってきたようだな」
「だよなぁ。はぁ…また山本長官や美桜に……って!!何でお前が此処にいる!?」
「ハッハッハ、気にするな、同志結城」
新聞が気になっていたとはいえ、流石に自分と同じテーブルに座る人の気配は感じることくらいは出来るはずなのだが、一切そんな気配を感じることなく、ましてや、ブラックコーヒーを優雅にすすっている男がいた。
滝沢だった。
「気にするなってなぁ、お前の神出鬼没性にはまだ慣れてないんだよ!!」
新聞を畳み気分を落ち着かせるために結城もコーヒーをすする。
「ふっふっふっ、そんなに誉めるな。照れるではないか…」
話が全く噛み合っていないにも関わらず、滝沢はまたもや手鏡を取り出し自分の髪を整え始める。
「誉めてねぇよっ!もっと普通に登場しろ!!」
「ふむ、その案は却下することにしよう」
「何でだよ…」
結城は何となくオチが分かったのか、一応、聞いとくか、のノリで肩を落としながら聞く。
「面白くないからだ!!!」
手鏡を懐にしまって、前髪をふわっと手で払う動作のあと、目を見開きそう宣言した。
「はぁ……」
もう何も言うまい。そう結城は心の中で呟くのだった。
「もういい……で、なんで俺の所に来たんだ?」
朝日が結城たちの座っているテーブルを明るくして、さっきまでの喧騒からまたこの喫茶店の特徴であるスローテンポのBGMが響き渡り始めた。
「ふむ、それなのだが、心構えというものを伝えておこうと思ってな」
先ほどの滝沢とはうってかわって、とても二枚目な、真剣な表情で話し始める。結城はいつもこんなならなぁ、と一瞬思ったのだがその感情を心の奥底にしまいこむ。
「心構え?」
「あぁ、戦争になる」
滝沢はそう言って手と足を組み、背もたれに背中を預ける。
「まぁ、こんな状況じゃ遅かれ早かれなるだろうさ……」
結城は少し憂鬱になりながらも現実に起こりうるだろう事を想像する。あの『夢』であった時のことのようなことを。
「……ふっ、やはり貴様には余計なお世話だったか」
滝沢はニヤリと不適に笑い、さっきまでの真剣さがなくなっていく。
「どういう意味だ?」
結城は滝沢の真意が分からず問いただす。
「いや、貴様が大丈夫だとか、俺がアメリカに一泡吹かせるとか言った時にはぶん殴ろうかと思っていた所だったのでな」
滝沢の目はマジだった。
「なっ!」
「だが!…貴様のさっきの表情を見れば分かるさ。戦争とは一体どんなものなのか知っている顔だった。そんなことも知らない国民がやれ戦争だと言っているのにもむしずが走っているところだったんだ。そんな言葉を貴様が言ったら……ふっ、あとは分かるだろ?」
滝沢は、本当の戦争も知らない奴が、戦争をする、と簡単に言う事が嫌だったのだろう。ましてや、同志と読んでいる結城がそんなことを言った時には『心構え』を教えてやろうとしたのだ。
「お前っていう奴は本当に意味が分からんよ」
コーヒーを片手に結城は目の前の男に感心にも似た感情を持った。
それから二人は言葉を交わす事もなく、結城は窓から朝日を眺め、滝沢は足と手を組んだまま眠っているのではないかと思わせるくらい、身動ぎもせず目を閉じていた。
二人はジャズ調のBGMがゆったりと流れ、朝の喫茶店らしく物静かな雰囲気を味わっていたのかもしれない。なぜなら、こんな静かな、そして暖かい空気にはこれから長い間、感じることが出来ないかもしれない、と、言葉にしなくても理解しあっていたからだ。
作者『お久しぶりですm(_ _)m
大学が夏休みに入り、ウハウハです(笑)
今日からこまめに書いていこうと思います。
さて、今回の話しは前回と時間軸は被っているのですが、日本側の視点を細かく描く為に書きました。ですので、話しにあまり進展がありません(汗)
ですが、次話では話を進める予定です!
誤字脱字、設定の矛盾、等々、色々と未熟な面が多々あります。
ですから皆様に指摘して貰ってよりよいものを書きたいです(笑)
それでは、よろしくお願いしますm(_ _)m
』