第十二話 不可思議な出会い
大変長らくお待たせいたしましたm(_ _)m
更新再開です!
ただ、まだ、開戦はまだですorz
……天地の行方が分からなくなって、三ヶ月ほどが経った。
結城と美桜は今でも天地が帰って来ると信じて、今まで以上に仕事に打ち込んでいた。
だが、やはり精神的にキツかったのだろう、仕事の打ち込み方は段々と度が過ぎていった。
そんな二人を見かねた山本長官は一週間の休暇を与えた。
結城は『大丈夫です』と答えたが、山本長官は頑としてそれを認めず、『短い夏休みだ』と半ば無理矢理、鎮守府から二人を追い出した。
結城と美桜は急に、何をすればいいのか分からなくなった。
軍に入れば何かと忙しく、やることは山ほどあったし、何より天地に関する情報がいの一番に自分達の耳に入ると考えていたからだ。
だが、休暇が与えられた今それは叶わず、二人は結局、自宅に戻り日がな一日ダラダラと過ごした。
そして、休暇二日目に美桜の自宅を結城が尋ねた。
「よぉ、どうだった?昨日の休暇は?」
美桜の部屋はかたずいていた、というよりほとんど何も置かれてはいなかった。
ベッド、机、冷蔵庫、そういった必要最低限の物しかなく、結城はそんな殺風景な部屋の一角に設置されてあるちゃぶ台の前に腰を下ろしながらそう尋ねた。
「別に…ただ、やることが無いから本読んだり寝てたりしてただけよ。」
ちゃぶ台にお茶を置きながら、ため息が混じったような気の抜けた感じの声でそう答える。
ずずっ
お茶を飲む音が部屋にこだまする。
外はやけに静かだった。
「あんたはどうだったの?久しぶりの休暇は?」
湯呑みを置きながら、そう尋ねた。
「ん?まぁ、お前と同じような事だよ…」
「そう……」
会話が続かなかった。
部屋に重苦しい空気が立ち込めてきており、その空気を払拭するように美桜が口を開いた。
「で?あんたは何しにこんなか弱い乙女の部屋に来たっていうの?」
「あぁ、それなんだがな……昨日考えたんだ。天地の事を……多分、俺達さ、無理してたんじゃないか?って」
美桜の言葉に突っ込みすら入れずに真面目な話をし始めた結城に、美桜は黙って耳を傾ける。
「口では信じて待つ、って言ってても、心の片隅で……………………こんな事、言いたくないけどさ、…………天地は、もう………………駄目なんじゃないかって」
結城がそれを言った瞬間、美桜は手に爪が食い込むくらいに手を握りしめていた。
二人は分かっていたのだ。
遠い異国の地で、危険な任務をこなしていた軍人が行方不明になり連絡すら取れなくなった、そうなれば生きている確率がほぼ無きに等しいということを。
ただ、それを認めたくなかった。
小さな頃からずっと一緒に居て、居なくなるなんて考えもしていなかったのだから。
だから、少しでも駄目だって考える自分がいることを認めたくなくて、仕事に打ち込んでいたのだ。
結城は、昨日の一日で自分自身と向き合った。
そして、その結果、出た結論を美桜に、話しにきたのだ。
「あんたは、強いわね……」
結城が話を終えると、顔を下に向けて手をぎゅっと握りしめている美桜が、そっと呟いた。
「美桜?」
結城は下を向いている美桜の顔を見ようとして、少し体を前に傾けるが美桜の前髪が邪魔をしてなかなか除けない。
しばらくそうしていると、美桜の顔から一粒の滴が落ちた。
その滴は、美桜の手の甲にぶつかって儚く散った。
「お、おいっ」
手を伸ばそうとした瞬間、美桜の肩が震えだした。
「分かってっ…るわよ……っ、そんな……事っ。でもっ…嫌だったっ…から……、認めたくっ…なくて、昨日っ…だって、ひっく……そうゆう…っく……事、考えたく、無くって、だからっ!、考えないようにしてたのに、あんたが、……そんなこと、ひっく……、言うからっ、止まんなく…」
そこまで言った美桜は、言葉を発することを止めた。
美桜の口が塞がれたからだ、いや、正確には結城に抱き締められ、口が塞がれたからだ。
「泣くな!泣いちゃ駄目だ!天地の事、駄目かもしれない、けど、もし、あいつが帰ってきたら、俺達は笑顔で迎えなきゃいけないんだ!」
美桜に、そして自分に言い聞かせるように言い放つ。
「あんた、…ひっく、さっき、と、言ってることが、違うんじゃ、ない?」
「あぁ、自分でも何いってるか分からん!けど、お前を泣き止ませないと何か昨日あれほど考えていた俺がバカみたいじゃん、俺、泣かなかったし、だから、生きてるって信じている自分もいるんだって思う。だから泣き止めよ。俺はお前のあやし方なんて、分からないんだ……」
「バカじゃ…ないの?」
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夕日が二人を包み込む。
ここは結城と美桜とそして、天地の田舎にある、海を一望できる丘の頂上。
そこには、一本の大きな木がそびえていて、回りは綺麗な花畑が広がっていた。
ここで三人はよく遊んでいた。
結城はあの後、何とか美桜を泣き止ませて田舎に帰らないか?と提案した。
何か理由があったわけじゃない、ただ単に帰りたいと思っただけだ。
美桜は最初、抵抗があったが、結城みたいに自分自身と見つめあいたいと考えていたので了承した。
久しぶりに帰った実家でこれまでの事(軍関係はさすがに喋っていない)や昔話に花を咲かせた。
そして、美桜は来なかったが、天地の家にも寄り、あいつは忙しくて来られなかったと報告した。
まだ、決まった訳でもないのに死んだ、とはさすがに結城も言えなかった。
そして、東京に帰る二人は最後に天地との思いでの場所に寄った。
「ここで、よく遊んだよな……」
海を見ながら呟く。
「うん。……ねぇ、和也」
「ん?」
顔を海に向けたまま続きを促す。
「私、なんだか、吹っ切れた気がする。うん。まだ、よく分からないけど、あんな風に仕事に打ち込まずに、今まで通りに天地を待ってられる気がする」
胸に拳を当てて、決心するかのように結城に、そう、言った。
「そうか」
一言だけそう呟く。
「うん」
美桜もそれだけを言って海を眺め続ける。
何故なら美桜は分かっているのだ。
自分達はもう大丈夫なのだ、と、何故かはうまく言えない。
けど、何故かそう思える確信があった。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「そうね」
「……ふっふっふっ、そこにいるのは、結城と橘、だな?」
踵を返そうとした二人に不審な声が聞こえた。
「誰だ!?」
結城はすぐに構える。
美桜も周囲に注意を巡らす。
しかし、声の主がどこにいるのか分からない。
「そう身構えるな。君達」
「ぬぉ!!」
なんと、その声の主は結城のすぐ後ろに立っていた。
それに気付いた結城は、すぐさま飛び退き美桜をかばいながら身構える。
「だから、身構えるなと言っている。私は敵ではない」
そう言った男は、少し伸びている前髪をふっと手で払った。
ナルシストな雰囲気で。
(こいつ、気配が全く無かった。何なんだ一体!?)
「な、何者だ!?」
ミステリアスな雰囲気に少し戸惑ったが結城は謎の人物に問いかける。
「おっと、礼儀がなっていなかったな。申し訳ない。私は帝国情報局所属の諜報員謙工作員謙ミステリー部部長の滝沢だ。以後お見知りおきを」
そして、いかにもジェントルマンな雰囲気で、右手を前に、左手を後ろに回して礼をする。
「「はぁ?」」
結城と美桜の声が重なった。
いきなり目の前に現れた男が情報局所属並びに諜報員並びに工作員並びに意味不明な部活の部長だと名乗ったからだ。
「お前、頭おかしいんじゃないか?」
本気で心配して結城は声を掛けた。
「いやいや、君達、凡人と違って私の頭は冴え渡っているよ。はっはっは」
「「…………」」
可哀想な人を見るような目付きで滝沢なる人物を見る。
その滝沢は手鏡を取り出し、自分の身なりをチェックし始めていた。
(おい、美桜、行くぞ)
(えぇ、そうね…)
結城と美桜は滝沢にバレないようにそっと、その場から立ち去ろうとした、が!
「いいのか?天地の事で話があったのだが?」
足を止めて、結城は滝沢に振り返る。
「何?」
そのまま歩を進めて滝沢の胸ぐらをひっつかむ。
「何だ!?何か分かったのか!?」
仮にも帝国情報局だと名乗ったのだ、何か分かったのかもしれないと結城のボルテージは上がっていく。
「おいおい、少し落ち着け。これでは話そうにも話せんではないか」
そう言いながらも、滝沢の顔はにやけている。
「そうよ、和也!ちょっと落ち着きなさい!!」
美桜が仲裁に入り何とか落ち着きを取り戻した結城は滝沢に話しかける。
「で、何か分かったのか?」
「あぁ、もしかしたら、生きてるかも、もしかしたら、死んでるかもって事さ」
結城によって乱された身なりを整えながらそう答える。
「どういう事だ?」
「俺の情報網に引っかかったんだが、ドイツで日本人が数名、どこかの施設に護送されたそうだ」
急に口調が変わった滝沢は、真剣な鋭い目付きで結城に言った。
「じゃ、じゃあ生きてるかもしれないんだな!?」
かすかな希望にすがり付くように滝沢に詰め寄る。
「いや、それがなその施設というのが何なのか分からんのだ。現地ではあそこに行ったものは二度と帰ってこないとも言われているようだ…」
「じゃあ、生きてる確率は……」
「八:二って所だ」
希望が絶望に変わっていく。
「……何で、そんな話をわざわざここにしに来たの??東京で会えばいいじゃない」
結城を尻目に横から美桜が口を開けた。
「いや、取り引きをしようと思ってな。まだその日本人が天地だと決まった訳じゃない。だからそこら辺の情報を結城と橘にやる」
「で、私達はあなたに何を渡せばいいの?」
美桜は完璧に交渉のテーブルに付いていた。
山本長官さえ教えてくれなかった情報をこの男は教えてくれた訳だし、嘘かもしれないが、なんだか、この男は嘘を言ってないような気がしたからだ。
「お前達が今後どのような行動を起こすか、俺に逐一報告する。それだけていい」
「それだけでいいの?」
美桜はさも不思議そうに尋ねる。
「あぁ。それだけでいい。蒋介石を助けて満州を独立させた君達の行動に俺は興味を覚えたんだ」
「「なっ!?」」
結城と美桜の声が重なった。
それもそのはず、国家機密をこの男はさらっと言い放ったのだから。
「な、なんで、それを?」
狼狽えながら結城は尋ねる。
「ん?私の情報網を甘く見るなよ!ハッハッハ〜、大丈夫だ、君達から聞いた事は一切口外しない。」
「な、何が目的だ!?」
動揺は隠せなかった。
「目的?ふっ、目的などない、只の趣味だ!!!」
そう言って滝沢は両手を大きく広げた。
(な、なぁ美桜、どうする?)
(ん〜、もしこいつに話してバレでもしたら、即軍法会議で銃殺よね)
(だよなぁ〜)
(でも、私は大丈夫だと思うわよ。分かんないけど信用出来そうだし)
(お前、軽いなぁ〜)
(いいじゃない、だって現に満州のこと知ってるのに、一切情報なんて漏れて無いでしょ)
(そ、そうだが、)
(それに、こいつの情報網はホントに凄そうだし、私達独自の情報ルートも作れるじゃない)
(ん〜、まぁ、お前がそう言うならな)
(じゃ、決まりね)
滝沢に聞こえないように喋っていた二人が結論を出して滝沢に向きなおしたとき、滝沢はまださっきのポーズをとったままだった。
「ん?結論は出たか?さぁ、どうする?」
「いいわ、乗ってあげるでも、」
そして、美桜は一呼吸置いて釘をさすように言う。
「絶対に情報を漏らさないこと、そして、嘘偽りなくこっちに情報を流すこと」
「ふっ。いいだろう!それでは、契約成立ということで、私は退散しよう。これでも忙しい身なのでね」
それだけ言って、滝沢はもの凄いスピードで丘を駆け降りいなくなった。
「ホントにあんなやつで大丈夫なのか……」
「私も自信が無くなってきたかも……」
そうして二人は、滝沢が去っていった方向に視線を向けていた。
「そうそう、言い忘れていたんだが」
「ぬぉっ!」
二人の背後から声が掛かった。
後ろを振り向くと、先程、物凄いスピードで丘を駆け降りていった滝沢がいた。
「お、お前、何で、さっき、確かに」
「ハッハッハ〜、細かいことは気にするな」
結城と美桜は驚愕の目で目の前のミステリーを見ていた。
「それでだ、これからは結城、お前の事は同志と呼ばせて貰う」
「はぁっ!?」
「それと、もう一つ、私の存在を軍に漏らすなよ。さっき、橘嬢が言っていたことを私も君たちに使わせて貰う」
「なっ!?」
「では、さらばだぁ〜!」
そして、またさっきの道を物凄いスピードで去っていく。
何も言えずに二人は呆然とその後ろ姿を見ることしか出来なかった…………
作者『いやぁ〜、長かったです!
大学に入り、今までに無かった授業体制、そしてバイト、自練やらで忙しいの何のって、って言い訳ですね。
すみません
このサイトも約3ヶ月ぶりに入りました。終わっちゃってる作品や話がかなり進んでる作品もありこれから読み進めるのに相当時間が掛かりますね(汗)
さて、今回は新キャラも出して、いよいよ、開戦の準備が整いました。
次話からは架空戦記っぽくしていけたらな、と思います(o^-^o)
ただ、これから、レポート提出やら期末テストがあるので、またもや不定期になるやも…
そんときは気長にお待ちください
では』
※
今日、沖縄では慰霊の日です。日米双方の全戦没者に哀悼の意を表します。
二度とあんな悲惨な出来事が起きないように…………