第十一話 君を信じて…
結城が飛行機訓練所(予科練)に入学し、少し時間が経った後、世界では激震が走っていた。
なんと、日本がドイツの動向を気にしていた通り、一九三九年九月一日にナチス・ドイツがポーランドに電撃侵攻を開始したのだ!
これを受けて、大日本帝国は事前に内閣内で話し合い合意に至っていた、日独技術協定を破棄しドイツとの交流を断った。
そして、ドイツはソ連と不可侵条約を締結し、北欧にも侵攻、これを占領した。
そうやってドイツがヨーロッパを蹂躙している間、日本は日中韓満の四ヵ国条約を締結し相互協力を強化し、尚且つ各国軍事力の強化に勤しみこれから起こりうるかも知れない戦乱の世に警戒していく事になった。
さてさて、そんな世界情勢の中、結城はたぐいまれない才能を発揮しものの一年で飛行機訓練所を卒業し、横須賀の鎮守府に戻ってきた。
初夏の香りが漂い始める一九四○年五月十三日、まだ優しい日差しを振り撒いている太陽の元、結城と美桜は横須賀鎮守府に向かって歩いている。
「んっ〜!はぁ…、久しぶりの鎮守府だなぁ」
伸びをして息を吐き感慨に更けながら歩を進める。
「全く…一年で卒業したのはいいけど、そういっただらしない所は卒業できないのね」
隣を歩く美桜は背筋を伸ばして結城より一、二歩先に歩いていく。
へいへい、といった感じで結城は美桜に遅れないよう歩を進めた。
視界に入ってきた鎮守府へ向けて…
コンコン
「入りたまえ」
「失礼します」
二人が長官室に入ると、一人の男が山本長官にお辞儀をして二人の脇を通って部屋を出ていった。
「お久しぶりです。長官」
「おぉ、結城君、久しぶりだね。どうかね?飛行機の方は?なんでも卒業最速記録を塗り替えたそうだが?」
「いえ、本当に飛ばせるだけです。空戦の訓練なんか時間がなくてまともに受けられませんでした…」
結城は操縦訓練は受けたが、予め一年間の在籍と決められていたので空戦訓練はあまり受けていなかった。
「そうかね?まぁ、操縦出来るだけでも儲けもんだ」
「ありがとうございます。それで…さっきいた男の人ですが……」
お辞儀をした後、先ほどの男に見覚えがあった結城は、山本長官に少し疑問をぶつけた。
「情報局局員でしたね?」
少し目を見張った山本長官であったが、すぐに平静さを取り戻し美桜をちらっと伺った後口を開いた。
「君にはバレたか…、あぁ情報局のものだ」
「珍しいですよね?直接長官に接触するなんて?」
情報局は文字どおり情報を集めて政府、陸海軍に渡す役目を担っているのだが急を要する件以外、普通、参謀を通して情報を渡すためその組織のトップに直接情報は渡すことはないのだ。
「そうだな…君達には話すべきだな」
そう言って山本長官は顔を強ばらせた。
「ドイツにて諜報活動をしていた『啄木鳥』と連絡が取れなくなった」
「「え?」」
二人は同時に疑問の声を上げた。
結城はいつも一緒にいて、実力は一番自分が知っている天地の失態、美桜は認めたくないがために本当の事なのか聞き返すために漏れた言葉だった。
「ど、どういうことなんです!?」
声を荒らげ結城は山本長官に詰め寄った。
「あ…、あいつが……そう簡単にトチるはずが…」
結城と美桜は茫然自失に陥り、結城に至っては歯を食いしばり拳を固めて下を向いていた。
そんな二人を見て山本長官は溜め息を一つ吐くと、二人に近づきポンポンと肩を叩く。
「まだ、死んだ訳じゃない…、連絡が取れなくなっているだけかもしれないだろう?信じて待つことだ。……それが、私達に出来る一番の事だ……」
そう言って山本長官は席に座り直した。
「そう……ですね。私達に出来るのはそんな事ですね」
と、茫然自失していた美桜が立ち直り山本長官に向かって、冷酷とも言える事を言った。
「おいっ!美桜!!お前っ、心配じゃ…」
頭に来たのかそんな結城の言葉を言い放つ前に美桜は口を開いた。
「でも、長官や真田局長には救援を送るなり、調査を行ったり出来ますよね?私達は信じることしか出来ないけど…長官達なら…」
そう、美桜は一軍人の自分達がいくら心配でも何か行動を起こせるわけじゃない。
しかし、山本長官などの上から命令を下す人間なら何かしらの命令で天地を助け出す事が出来ると考えたのだ。
「そうだっ!山本長官ならっ!」
美桜に向かっていた焦りというか怒りといったようなものが今度は山本長官に向かう。
「あぁ、既に指示は出している。只、特殊工作部隊を再度投入するのは見送られた…」
それを聞いた結城は更に山本長官に詰め寄った。
「どうしてですか!?天狗なり大蛇なり送り込めばそれだけ早くたすか……」
「これ以上、犠牲を増やすわけにはいかん!!!」
ピシャッと結城の言葉を遮り、鋭く真っ直ぐな目で結城を貫いた。
「これ以上、犠牲を増やすわけにはいかんのだ…分かってくれ……」
そんな威厳のある山本長官の言葉を聞き、結城と美桜は冷静さを取り戻し始めた。
確かに、公に存在が知られていない特殊工作部隊が一つ潰れたのだ。
これ以上の機密漏洩は防がなければならない。
「その代わり、一刻も早く情報を掴み、確証が得られたら直ぐにでも現地に飛べるように、天狗に常時待機命令を下しておいた。……心配しているのは君達だけではないことを、分かってほしい…」
沈痛な面持ちで山本長官はそう答える。
その時、結城は自分達の気持ちだけが先走っていた事に気付き、ぎゅっと拳を握ってからそれを解く。
そして、必ず帰ってくると、天地を信じて待つことを決心した。
だが、天狗が動き出すことは二度となかった……
作者『すみませんすみません!!
最近が一番忙しくなってしまってまともに執筆が出来ません(汗)
今投稿したのだって
大分前に執筆が停滞していたし
まだ長くなる予定だったのですが
無理矢理切って投稿しました
ホントにすみません!!
ですが
頑張ります!
そのためにも
評価、感想をよろしくお願いします
m(_ _)m』