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第八話 GuteReise







 夢を見ていた。


 とても怖い夢。


 最初は勘違いだと思った。


 でも、目をつむるとその夢が追いかけて来る。


 逃げたかった。


 でも、逃げられなかった。


 だから、救いを求めた。


 そして、手を取ってくれた。


 そこからなのかもしれない。


 それは、自分の運命とは言いたくないけど…これだけは言える。


歯車が動き始めたのは…そこからだった…


――――――


東京・首相官邸


「えぇ…そうです。ドイツが何やら不穏な動きを…。では、頼みます」


ガチャ


 近衛総理は受話器を置き、ソファーに座り溜め息を吐く。


 すると、部屋に扉をノックする音が響き、秘書が入ってくる。


「総理。永田大臣と米内大臣がいらっしゃています」


 永田鉄山は、陸軍の皇道派と統制派との派閥争いに巻き込まれずに済んで順調に出世していき、陸軍大臣のポストに収まった。


 米内光政は、まぁ史実と同じく、と言った所か…


「あぁ。通してくれ」


 秘書は一礼した後、部屋を出ていった。


 近衛総理は、二人がくるまで新聞を開いたり煙草を吸ったりした。


 そうこうしているうちに、またしても扉がノックされ、男が二人入ってきた。


「総理、私ら二人を呼び付けたのなら、何か重大な案件でも?」


 永田大臣が近衛総理の向かいのソファーに腰掛けながら聞いた。


「えぇ。ナチスが何やら不穏な動きをしているのはお二方も知っておられるでしょう?」


 ドイツは第一次大戦後のベルサイユ条約によって負わされた条件に苦しめられた。


 そして、必然的にヒトラーの台頭を許してしまいナチス・ドイツが誕生してしまった。


「聞いてますよ。…それと関係が?」


 そう聞かれた近衛は少し顔を落とし、うなだれた。


「戦争を始めるかもしれません…」


 永田と米内の二人は少し驚いた様子だったが、思い当たる節があったのかそこまで凄い反応を見せなかった。


「ふむ…では、私たちをここに呼んだ理由を聞いてもいいでしょうか?」


 これまで黙っていた米内が腕組みをしながら近衛に鋭い眼光を見せる。


「それなんだが…ナチスはユダヤ人迫害に始まる人種差別や秘密警察による抵抗勢力の弾圧など、様々な問題を抱えている」


「ということは…協定を?」


 米内は近衛の言葉を聞き、その先に行き着く答えを口にした。


 それに近衛もうなずく。


「そうです。もし、戦争が始まると技術協定を結んでいる我々にも火の粉が飛んできそうなのです。特に、アメリカから…だから、もしナチスが戦争を開始したら、技術協定を破棄することにしたいのです。その了解を…」


 永田と米内は顔を見合わせ、少し考えたが、先に口を開いたのは米内だった。


「海軍としては、電子技術や航空機エンジン等の技術力はナチスと同等かそれ以上です。不満はありません」


 海軍はドイツとの技術協定が結ばれた当初から電子技術の向上を目指しており、ドイツの背中を追っていたが、八木・宇田アンテナの成功で電子技術は飛躍的に向上した。


 さらに、潜水艦、航空機エンジン、といった最新技術も向上した。


 海軍から了解を得た近衛は胸を撫で下ろしたが、すぐに永田の方に顔を向けた。


「ふ〜む。陸軍としては、戦車や列車砲等、まだまだ吸収したい技術があるのですが…」


 陸軍は戦車、銃、砲、といった重火器を中心に技術交流を行った。


 だが、朝鮮、満州といった大陸から日本が手を引くにつれて、陸軍予算が徐々に減らされていったため、海軍より技術向上はなされなかった。


 しかし、史実よりは格段に技術向上がなされており、まとまった資金さえあればまだまだ技術向上が見込まれている。


 だが、永田は唸っていた。


 近衛は焦ったが、そこで米内が助け船を出した。


「永田さん。もう充分我々の技術力は欧米に見劣りしません。後はコピーや応用ではなく、我々は我々の物を作っていきませんか?今より、一歩先に」


 それを聞いた永田は、少し考えた後、分かった、と了承した。


「よかった。こうもすんなり了解してくれるとは…ありがとうございます」


 笑みを浮かべて両者の手を取る。


 すると、思い出したように米内が口を開いた。


「この事は情報局に?」


「えぇ。連絡しました。お二方の了解が得られたら、例の特殊部隊をベルリンに送り込み、情報収集に当たらせる手筈になっています」


 今度は、そのやり取りを聞いた永田が口を開く。


「では、天狗を?いや、大蛇かな?彼らも久し振りの任務で腕がなるでしょう」


 少しにやつきながらそう言ったが、近衛はそれを苦笑いで返した。


「いえ…向かわせるのは『啄木鳥』です…」


――――――


横須賀・鎮守府


「大変でしたよ。でも、長官も酷いです。私たちを雑用みたいな扱いをして」


「いやぁ〜。すまんすまん。君には色々と体験させようと思ったんだが、まさかあぁなるとは」


 連合艦隊司令長官室にて、結城と美桜は満州と中国での報告にきていた。


「でも、君が啄木鳥の隊長をしてくれて助かったよ。蒋介石が死んでいれば、満州の独立なんて認められるはずもないからな」


 結城の肩を叩きながら、笑っている。


「えぇ。私もそう思いますよ。それにこいつもいてくれて助かりました」


 そう言って、腰に掛けているM1911A1を見せる。


「そうか。そう言ってくれると君に渡したかいがあったな」


 結城は、銃身に掘られている侍の字をなぞった後、ホルスターに銃を戻す。


「それと、確認したいんだが…」


「なんでしょうか?」


「『夢』は見てるかね?」


 結城は少し考えた。

「いえ、見てません。何ででしょうね、毎日と言っていいほど見てたのに…ただ、その理由は分かりません…」


「いや、それでいいんだ。あんな『夢』など見ない方がいいのだ」


 そう断言する。


「どうしてです?」


「いや、ね。誰かに操られているようで嫌なんだよ。自分達の運命は自分達で決めたいからね。その先が希望でも絶望でも、それが私たちが自分の足で歩いてきた証拠なのだからな」


「それも…そうですね。自分の足で」


 そこで、二人とも黙ってしまった。


 その静寂を破ったのは美桜だった。


「それで、長官。次は私達に何をしろと?」


「それなんだが…結城君、君は、飛行機は飛ばせるか?」


 それを聞いた結城は、少し顔を歪ませた。


「飛行機…ですか?いえ、無理ですが」


「では、予科練で航空機の操縦訓練を受けてきてくれないか?戦闘が出来なくても、役に立つと思うんだ」


 予科練は、条約が失効されたのによる、空母の増産計画や新型航空機の増産によって、大量の航空機搭乗員育成に迫られたため規模が非常に大きくなっていった。


 結城は、またか…と思ったが、中国まで行った彼は精神的にとても成長?しており、すぐに分かりましたと返事をすることが出来た。


「では、来週から頼むよ。連絡は入れておく」


「それでは失礼します」


 敬礼をして二人は出ていった。


――――――


 横須賀を後にした二人は東京に戻り、銀座にきていた。


 何かと忙しく、美桜と再会したことや一緒に飛び回っていることを天地に言いそびれた結城が、帰ってきてから天地に連絡を入れると『飯食いにいこうや』となって今に至るのだ。


ガヤガヤ


「で、なんで食堂なのよ!?」


 異論大有りと、天地に突っ掛かる。


「だってよぉ〜。料亭とかレストランって合わないじゃん?」


 天地はそう言いながら、人差し指と人差し指をツンツンと合わせて落ち込んでいる。


「まぁまぁ。美桜もいいじゃないか。天地が料亭とかレストランに連れてきたら逆に俺は驚くぞ?」


 美桜はそれを聞いて納得した感があったのか、押し黙ってしまった。


「ほら、和也もそう言ってるじゃん♪怒るなって…って!俺ってお前らから見るとそんなイメージかよ!?」


 仲裁に入ったような結城だったが、天地の心にまた傷を作ってしまったようだ。


「そうだ」


 トドメの一言。


 天地は轟沈した。


「そうね、和也の言うとおりだわ」


 美桜はやっと納得したのか、食堂のオバちゃんに定食を頼みだした。


 その横で、結城と復活した天地は声を潜めた。


「なぁ、和也。」


「ん?なんだ」


「美桜って変わってないな」


「あぁ、そうだな」


 そこで、二人して吹き出し、美桜の頭にハテナマークと怒りマークが現れたのは言うまでもない。


 それから、三人は久し振りに揃った勢いで昔話に花を咲かせ、バラバラになった後の事等を話して盛り上がった。


「ふぅ〜。じゃあ、そろそろ出るか」


 天地がそう切り出した。


「そうだな。それじゃあ帰る…」


 そう言って立ち上がろうとした結城を天地が止めた。


「?どうした」


 すると天地は、真剣な顔つきになった。


「二人とも、大事な話があるんだ。少し付き合ってくれないか?」


 天地は、いつもふざけたり、茶化したり、気さくなやつだが、たまに真剣な顔をするときがあり、それは本当に大事な話をする時だけだと結城も美桜も知っていて、二つ返事で了解した。



 そして着いた先は海だった…


「ん〜。俺の頭ん中じゃ砂浜に夕焼けだったんだけどなぁ〜」


 そこは、夕暮れに染まるベンチがあるただの海が見える散歩道だった。


「いいじゃない。別に。で、話って何?」


「あぁ。俺さ…ドイツに行くことになったよ」


 赤く染まる海を見つめながら感慨深げに言う。


「ドイツ?任務か?」


 結城はすぐに答えを導き出した。


「あぁ。ナチスが不穏な動きをしてるから探ってこいってさ」


「その話はいつ言われたんだ?」


「ちょうどお前が海軍に転属になった日だったかな?」


「そうか…いつ行くんだ?」


「明日、行くよ…」


 今までのテンションが一気に下がっていく。


「じゃあ、また三人で会うのはあんたが帰ってきてから?」


「そうだな…」


「「「…」」」


 三人とも黙ってしまい少しの静寂が訪れた。


 船のエンジン音が響き渡る。


「まぁ、ゲシュタポに見つからないように気をつけろよ」


「そんなドジはしないよ」


 そう言いながら苦笑する。


「じゃあ、今度は料亭にでも連れていきなさいよ!」


 辛気臭いのを吹き飛ばすように言う。


「また俺の奢りかよ!」


 ハハハハと三人で笑い合う。


「じゃあ、俺行くわ」


「あぁ、本当に気をつけろよ」


「体にもね」


「おぅ!」


 すると天地は結城にゴニョゴニョと耳打ちした。


 結城も大袈裟に顔を赤くしながら何か言っているが美桜には聞こえない。


「じゃ、またな!」


 結城との話も終わり、歩いていく天地。


 そんな天地の背中に結城がドイツ語で語りかける。


「グーテライゼ、天地」

「ダンケ、和也」


 後ろ手に手を振りながら天地は歩いて去っていった。








作者『最近忙しい作者です

少し耳にしたのは、大和の引き上げ!

テンションが上がりました!

けど

あれはいわゆるお墓なんですよね…

大和と一緒に沈んでいった人達の……

それを荒らすような事をしてもいいのか、と考えてしまいます(汗)

さて

沖縄では桜が咲き始めています

桜祭、行きたいなぁと思っています

内地では入学シーズンに桜が咲くんでしょうけど

こっちでは卒業シーズンですから…


では

ご意見ご感想をお待ちしております

m(_ _)m』

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