第四話 相棒!?
固い握手の後、具体的な話しのために応接用のソファーに座った。
ソファーは二台向かい合わせに置かれており、間にテーブルが設置されていた。
一つのソファーには山本長官と黒島参謀、もう一つには結城と美桜が座った。
「さて、具体的な話に移ろう」
山本長官が話しを切り出した。
「まず、君が見た夢について話してくれないか?」
美桜が淹れてくれたコーヒーを飲みながら話し始めた。
あのキノコ雲や焼け野原になった大地のことを中心に話した。
「ふ〜む。そうか。そのキノコ雲とやらが気になるな。一発だけだったんだろ?」
こちらもコーヒーを含みながら喋っている。
「えぇ、そうです。たった一発で街が吹き飛びました」
真剣な面持ちで山本長官を見据える。
「そんな爆弾聞いたことないぞ?結構先の話しじゃあないんでしょうかね?」
黒島参謀の言うとおりだ。
たった一発の爆弾で街が消し飛ぶなど誰も聞いたことがないからだ。
「だが、それを『夢』で見たんだろ?」
うなずく結城。
「じゃあいつの日か分からんがそんな爆弾が開発されるのだろう」
そう、考え深く答える山本長官であった。
「「「「……」」」」
沈黙が訪れた。
この重い空気を打ち破いたのは今まで黙って話しを聞いていた美桜だった。
「あ…あの。ちょっとよろしいでしょうか?」
よそよそしく話を持ち掛ける。
「なんで…私がこんな席に同席しているのでしょうか?それにさっき話してた啄木鳥とかって何なんです?」
山本長官が顔を美桜に向けて思い出したように喋りだした。
「そうだったね。なんで橘君がここにいるのか、聞いてなかったな…黒島?」
少しジト目で横に座っている黒島を見る。
「ガハハハ。いや、二人とも知り合いみたいですし、一緒にいたら面白いかなぁ…と」
結城は呆れた顔をして、やっぱりこの人は変人だと確信した。
「そうか…じゃあこれから橘君をどうするか、だな」
山本長官が腕組みをして思案し始めた。
「えっ!?待ってください。じゃあ私は左遷なんですか!?」
少し驚いた感じで声を荒げる。
「まぁまぁ、橘君。山本長官はそんなことせんよ」
そんな美桜を黒島参謀がなだめた。
そして、結城はここで疑問を持った。
いくら秘書みたいなものでもなんで山本長官が美桜の名前を知っているのだろうかと。
「あの…黒島参謀」
「ん?なんだ?」
「美桜って誰の秘書なんですか?」
一人思案している山本長官を置いて、結城は黒島参謀に疑問の答えを求めた。
そうか、とニヤニヤしながら人差し指をクイッとして自分の顔に結城を近付けさせた。
「…山本長官のじゃよ」
「なっ…なにーッ!」
ガタッと音を立てて驚いてしまった。
「ちょっと、なんでそんなに驚くのよ!」
気に障ったのか美桜は結城に食ってかかった。
「えっ…何でって」
結城は衝撃発言によって驚愕していた。
「そうだぞ、結城君。失礼だ。橘君はとても優秀じゃぞ?事務はできるし、射撃はうまいし、空手もできるし、お茶もうまいし、それに美人だしのぉ〜」
「ほらみなさい!参謀だって認めてるのよ!」
黒島参謀の援護射撃があったからなのか、一気にまくし立てる。
「わ…分かったって、分かったから。驚いてすまなかった」
すまないと頭を下げる結城。
「分かればいいのよ」
納得した美桜。
そんな二人を見ながら、必死に笑いを堪えている黒島参謀がいた。
そんなこともあり、部屋の空気が幾分か軽くなったとき、山本長官の目がゆっくりと開いた。
「橘美桜参謀副官!」
「は、はいっ」
「君を本日付で結城君の参謀副官とする!」
「「…はいっ!?」」
またもや見事なシンクロ!
「なんで俺なんですか!?」
「なんで私なんですか!?」
もう息がピッタリだ。
黒島参謀は笑いを堪えられずに吹き出してしまっていた。
「何でって、知り合いみたいだし、息もピッタリだしな」
「だからって…」
まだ反論しようとした美桜にたいして、キッと鋭いまなざしを向けた。
「命令だ」
ただ一言、とても簡単な言葉を一言発言しただけで二人は、はいとしか言えなくなってしまった。
「それと、結城君は海軍少佐。特命参謀として働いてもらう」
「い…いきなり少佐ですか」
少し疲れた感じで声を発した。
「あぁ。君には私の変わりに色々な所に飛んでほしいからな」
「はぁ…」
結城は呆れた顔で相槌をうった。
まぁ、普通の反応だろう。
「シャキッとしろ。シャキッと。頑張るんだぞ!」
そう言って優しく微笑んだ山本長官はソファーを立ち、自分の机に戻った。
山本長官に続いてソファーを立った三人は机の前に黒島、結城、美桜の順番で一列に並んだ。
山本長官はそんな三人を見た後、机の引き出しから書類と小さな封筒を美桜に渡した。
渡した後、また引き出しから書類と小さな封筒、そして小さな包みを結城にも渡した。
「橘君のは移動の書類、結城君は転属と昇進、階級章だ」
「この小さな封筒は?」
結城が疑問を山本長官に投げかける。
「君達には旅順に飛んでもらう。最近満州の独立運動が活発化していてな。書類に書いてある海軍の見解を陸軍…関東軍に伝えてきてほしい。そのための航空券だ」
「民間の?軍用機で飛んだ方がよくありませんか?」
「いや、途中韓国によってもらって、韓国陸海軍協同特殊部隊の亀甲部隊の査察も行ってほしいのだ」
韓国にも日本の帝国情報局特殊工作部隊のような部隊があるのだが、日本のそれとは違い、制圧を主目的とした攻撃型の陸海軍協同で組織した特殊部隊があるのだ。
「軍が関与していると勘ぐられたくないから民間人の振りをして査察しろっていうことですか?」
「そこまで理解してくれるとこっちも頼みやすい。頼まれてくれんかね?」
隣にいる美桜を見ると目が合い、その目はあんたに任せると言っているようだった。
「…分かりました。どこまで出来るか分かりませんがしっかり指導してきましょう!」
「よく言ってくれた。これは、私からの選別だ」
そう言って取り出したのはコルト社のM1911A1であった。
銃身の側面に『侍』と掘られていた。
「私がアメリカに滞在していた時に特注したものだ。大切にしてやってくれ」
M1911A1を手にした結城は少し弄っていたが、ホルスターに納め、腰にかけた。
「一人と一つの相棒と一緒に頑張ります!」
「私も、結城少佐と一緒に頑張ります!」
二人は敬礼した。
「うむ」
山本長官は笑顔のままうなずいた。
「では長官、私は準備がありますのでお先に失礼いたします」
そう言って、美桜は長官室を後にした。
そして結城は立ち去る前に聞いておきたいことがあった。
「山本長官はいつまでこの鎮守府に?」
「連合艦隊大改装のせいで『長門』がドッグに入ってしまってね。しばらくはここにいるつもりだ。まぁ艦隊司令部は艦より陸にあるほうがいいと私は思うのだがね」
どうしようもないと頭を掻きながらそう言った。
「私もそう思います。司令部が艦にあったらその艦を動かしにくくなって宝の持ち腐れですし、もし前線に出てきたとしても撃沈されれば司令部機能が無くなって連合艦隊は混乱してしまいます」
昨日の夜に天地との話しに出てきたことを結城は山本長官に進言した。
「君の言う通りなんだがね、伝統というものがあるんだよ」
「そんな伝統っ」
そこで山本長官は右手をかざして結城を静止した。
「私にも考えがある。任してくれ」
「…分かりました。では行ってまいります」
踵を返して長官室の扉のノブに手を掛けた瞬間に黒島参謀に呼び止められた。
「結城少佐!」
「何でしょうか?」
振り返ると黒島参謀がニカニカと笑っていた。
「あいつのこと、守ってやれよ!」
そして結城は心に誓った。
「俺の全存在を賭けて守りますよ!」
- 一九三九年四月二十三日 -
作者『急いで書いたので
おかしなところが
あったようなないような…不安です(汗)
結局満州を
話しに絡ませることにしました
1941年までまだ時間がかかりそうですが
よろしくお願いしますm(_ _)m』