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竜王と黄金のハート 番外   作者: 葉月秋子


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9/15



 皆が心配しているだろうな。

 黄金竜の子飼いだった騎士たちが、ふもとに食料や日用品を運んでくれていたのだけれど。

 取りに行く途中で、沢に落ちてしまったのだ。

 治るまで、連絡が取れない。

(何があっても、登ってこないでって言って来たけれど・・・)



 その頃、ふもとの騎士たちのキャンプでは、激高した若い騎士を全員で説得しようとしていた。

「食料を取りに来ないなんて、何かあったに違いない!

 野生の竜、それも手負いの竜のそばにいるんですよ!

 絶対、何か危険なことが!」

「心配しているのは皆同じだ、ハリス。

 だが、絶対に近づくなと言いおかれているだろう!」

「お館様にも、姫君ご自身にもだ!」

「初めから覚悟されて行かれたのだ」

「何が有ろうと、近づくなという主命だ!」

「皆同じ思いなのだ、ハリス。耐えるしかない!」


 同じ思いだと?違う、断じて違う!

 私ほど姫を思っている者はいない!

 姫!どうかご無事で!





 少女がちいさなナイフで果物の皮を剥くのを、竜は不思議そうに見ている。

 人間の手の動きが不思議でならないらしい。

 

「そんな小さな指がよく器用に操れるものだな」


 皮を剥いた一切れの果物をその指で受け取って口にしながら、竜は言った。


「人間は、道具を使う生き物。この手が必要なものすべてを作り出すんです」

 少女は言う。


「家も、武器も、食べ物も。

 でも。巨大な魔獣たちには、とてもかないません。

 だから、竜王・・・」

「私は人を守ったりせんぞ」

 また、断られてしまう。


 それでも。あなたはここにいてくれる。

 少女は微笑んだ。


「なんだ?」

「いいえ、ただ、あなたが人の形でいてくれるのが、うれしいの」


 思ったままを、少女は口にした。

 人の形になって、人を理解してくれれば、きっと。


「私に人の形を取らせたかったと?」

 竜は顔を上げた。


「私を人型にしたくて、わざと怪我をしたのか?」


 少女はびっくりして首を振る。

「いいえ、違うわ!」


 金の眼が怒りの色を帯びて、ギラギラと輝きだす。


「黄金竜の(すえ)だといったな。

 奴と二人で仕組んで、私に人間の姿を取らせたのか?

 私を罠にかけたのか?」





 黄金竜との暮らしが長くて、つい、忘れてしまった事。


 竜は、野生の獣なのだという事。

 人に触れたことのない、人の生死など歯牙にもかけぬ、誇り高い野の生き物。

 偽りを。何より嫌う。


 溶けた金のような眼に捕らえられ、少女は身動きもできない。

 気力がすべて失せ、意識も霞むような、獣の怒り。


「私が人の姿になれば、情が移ると思っていたのか!

 お前が沢へ落ちたのも、怪我をしたのも、計略のうちか!」


「ちが・・・あれは。事故・・・!」


 竜は手荒く少女の首筋を掴んで顔を上げさせた。

 半身を引きずりあげられ、痛みに声を上げそうになって必死でこらえる。

(力の入れ方がまだわかっていないのよ・・・)


「人間になってほしかったんじゃない・・・ただ、人間を襲わないって、約束して・・・欲しくて・・・」


 燃え上がる、竜の怒り。


「私を謀るな!」


 荒々しく揺さぶられ、とうとう少女は泣き出した。

 泣きながら、竜を見上げ、悟った。


(何よりも、人間になって欲しいと、願ったんだ、私・・・)


 黄金竜とは全く違う、荒々しく、若く、美しい、野生の獣。


 傍らで暮らし、話しかけながら、人間だったらどんな姿を取るのだろうと、いつしかそればかり考えていたのだ。

 人間を襲わないと約束をさせなければならない、大事な使命も忘れて。




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