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竜王と黄金のハート 番外   作者: 葉月秋子


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8/15



 暑い・・・水が飲みたい・・・。

 心細さに泣きそうになり、苦し気に頭を振った。


[死んじゃうのかな・・・私・・・]


 黄金竜の優しい顔を思うと、やはり涙を止められない。


[ごめんなさい、おじい様・・・。

 私たちのために命を捨ててくださったのに・・・。

 私、あの方を説得することが出来ませんでした・・・]


 だが、城へ帰る気はなかった。


[ここで死ぬわ・・・]


 少女は頑固に思った。


[死んだ私を見たら、あの方は少しは哀れだと思ってくれるかしら・・・。

 それともネズミの死骸みたいに、汚いって放り出すのかしら・・・]




 竜は慣れない体で寝返りをうった、

 

 同じ人型でいるほうが、心話は通じやすいらしい。


 能力の高い彼女が熱で混乱しているので、表層意識が流れてきてしまう。

 漠然とした感情や苦痛が感じ取れてしまうのだ。


 うるさい。


 竜体に戻って耳をふさげば少しはましになるはずなのに。


[私はなぜ、まだこの姿でいるのだろう]




 翌朝。

 何かが朝日を遮った。

 

 熱で朦朧とし、渇きに苦しみながら目を開くと、大きな人影が見下ろしていた。

 少女は驚いた。

 まだ、人の姿でいてくれたなんて。


 竜は少女を抱き起こし、木の皮を巻いた即席の杯を渡してくれた。

 冷たい水を喉をならして少女は飲み干す。


「強情な子だ」


 竜は近くに転がしたよく熟れた果実と木の実を示す。

「人間は何を喰う?

 この中に喰えるものがあるか?」


 これでなければ、草とか、木の葉とか、小動物か?

 少女は身震いしてこれでいいと答えた。


「右足が折れているが、しばらく使わなければ治るだろう」

 

 餌は運んでやるからしばらく動くなと、竜が言う。


 竜王が助けてくれるのなら、まだ、ここに居られるかしら。


「添え木がほしいのだけれど、探してきてもらえる?」

 首を傾げる竜に説明する。

「これくらいの長さと太さの、まっすぐな棒があれば。

 折れてるところにあてて、縛っておけば、骨が曲がらずに早く治るの」



 手持ちの布を裂いて包帯を作っているうちに、竜が枝を一本持ってきてくれたので、城で習ったうろ覚えの救急の知識から、どうやりたいか説明する。


 添え木をあて、慣れぬ手つきで不器用に布を巻いてくれる間、少女は悲鳴を噛み殺して痛みに耐えた。

 だが竜は布を結ぶことが出来ない。

 何度も失敗して、少女を痛い目にあわせてしまう。

「すまんな。私には出来そうもない」

 とうとう諦めてしまう。


 涙を流しながら、少女は微笑んだ。

「ううん、その身体に慣れていないんですもの。

 その手をうまく使えないのも当たり前だわ。

 起こして。

 支えててもらえれば、私、結べると思うわ」




 身体にかけてくれた上着を竜に返そうとして手に取った少女は、しげしげと眺めてしまう。


 手縫いの普通の上着に見える。

 だが、よく見てみると、布と糸が一体化しているのだった。


「この服も、あなた自身なの?どうやっているの?」

「うむ。どうやっているのだろうな」

 自分でもわからないらしい。

 布で出来た服や、革の帯、下げられている剣を不思議そうに触っている。

 黒を基調にした、若い郷士か貴族の子息のようないでたちには、まったく違和感がない。


「人の形になろうと思っただけで、姿の詳細まで決めてはおらぬ。

 私の魂の形にふさわしい、姿になれと念ずるだけだ。

 人は鳥の羽のように服をつけているものだと思っていたからな。

 身体から生えているものだと。

 外せるとは思わなかった」


 少女はびっくりしてしまう。


 竜は剣を抜き、刃に触れてみる。


「外せるものを全部合わせても、鱗の一、二枚の質量しかなさそうだ。

 鱗とか、爪とか、なくしても構わぬ所から出来ているのかもしれぬ」


 よく響く、深い声。

 思わず聞き惚れてしまった少女は、素直に口にして微笑んだ。


「あなたの声、好きだわ。気持ちのいい低い声」


 竜も笑った。

 笑い声が出たことに驚いている。


「笑い声はもっと好き」


「そうか、これは笑い声か。気分のいいものだな」

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