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暑い・・・水が飲みたい・・・。
心細さに泣きそうになり、苦し気に頭を振った。
[死んじゃうのかな・・・私・・・]
黄金竜の優しい顔を思うと、やはり涙を止められない。
[ごめんなさい、おじい様・・・。
私たちのために命を捨ててくださったのに・・・。
私、あの方を説得することが出来ませんでした・・・]
だが、城へ帰る気はなかった。
[ここで死ぬわ・・・]
少女は頑固に思った。
[死んだ私を見たら、あの方は少しは哀れだと思ってくれるかしら・・・。
それともネズミの死骸みたいに、汚いって放り出すのかしら・・・]
竜は慣れない体で寝返りをうった、
同じ人型でいるほうが、心話は通じやすいらしい。
能力の高い彼女が熱で混乱しているので、表層意識が流れてきてしまう。
漠然とした感情や苦痛が感じ取れてしまうのだ。
うるさい。
竜体に戻って耳をふさげば少しはましになるはずなのに。
[私はなぜ、まだこの姿でいるのだろう]
翌朝。
何かが朝日を遮った。
熱で朦朧とし、渇きに苦しみながら目を開くと、大きな人影が見下ろしていた。
少女は驚いた。
まだ、人の姿でいてくれたなんて。
竜は少女を抱き起こし、木の皮を巻いた即席の杯を渡してくれた。
冷たい水を喉をならして少女は飲み干す。
「強情な子だ」
竜は近くに転がしたよく熟れた果実と木の実を示す。
「人間は何を喰う?
この中に喰えるものがあるか?」
これでなければ、草とか、木の葉とか、小動物か?
少女は身震いしてこれでいいと答えた。
「右足が折れているが、しばらく使わなければ治るだろう」
餌は運んでやるからしばらく動くなと、竜が言う。
竜王が助けてくれるのなら、まだ、ここに居られるかしら。
「添え木がほしいのだけれど、探してきてもらえる?」
首を傾げる竜に説明する。
「これくらいの長さと太さの、まっすぐな棒があれば。
折れてるところにあてて、縛っておけば、骨が曲がらずに早く治るの」
手持ちの布を裂いて包帯を作っているうちに、竜が枝を一本持ってきてくれたので、城で習ったうろ覚えの救急の知識から、どうやりたいか説明する。
添え木をあて、慣れぬ手つきで不器用に布を巻いてくれる間、少女は悲鳴を噛み殺して痛みに耐えた。
だが竜は布を結ぶことが出来ない。
何度も失敗して、少女を痛い目にあわせてしまう。
「すまんな。私には出来そうもない」
とうとう諦めてしまう。
涙を流しながら、少女は微笑んだ。
「ううん、その身体に慣れていないんですもの。
その手をうまく使えないのも当たり前だわ。
起こして。
支えててもらえれば、私、結べると思うわ」
身体にかけてくれた上着を竜に返そうとして手に取った少女は、しげしげと眺めてしまう。
手縫いの普通の上着に見える。
だが、よく見てみると、布と糸が一体化しているのだった。
「この服も、あなた自身なの?どうやっているの?」
「うむ。どうやっているのだろうな」
自分でもわからないらしい。
布で出来た服や、革の帯、下げられている剣を不思議そうに触っている。
黒を基調にした、若い郷士か貴族の子息のようないでたちには、まったく違和感がない。
「人の形になろうと思っただけで、姿の詳細まで決めてはおらぬ。
私の魂の形にふさわしい、姿になれと念ずるだけだ。
人は鳥の羽のように服をつけているものだと思っていたからな。
身体から生えているものだと。
外せるとは思わなかった」
少女はびっくりしてしまう。
竜は剣を抜き、刃に触れてみる。
「外せるものを全部合わせても、鱗の一、二枚の質量しかなさそうだ。
鱗とか、爪とか、なくしても構わぬ所から出来ているのかもしれぬ」
よく響く、深い声。
思わず聞き惚れてしまった少女は、素直に口にして微笑んだ。
「あなたの声、好きだわ。気持ちのいい低い声」
竜も笑った。
笑い声が出たことに驚いている。
「笑い声はもっと好き」
「そうか、これは笑い声か。気分のいいものだな」




