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何か変だ。
竜は顔を上げた。
窪みが、空だ。
少女がいない。
[やっと仲間のところに帰って行ったか]
竜はのんびりと身体を伸ばした。
うるさい小鳥が飛んで行った。やっと静かに寝られる。
だが。
何か、落ち着かない。
奇妙な不安に、竜はいらいらと何度も位置を変える。
とうとう立ち上がり、岩窟の入り口まで出て行った。
眼下に広がる岩肌と、大森林。
竜王の住処である岩山は、船の舳先のように岩山の頂上近くに張り出している。
森の向こう、ふもと近くに人間の巣が固まって在る。
岩窟から森の中へ、人間の巣の方へ、意識をのばしていく。
たいして下に行かずに、何かが心に引っかかった。
かすかだが、苦痛と恐怖の念が届く。
竜は斜面を降りた。
小川となって流れ出した池の水は、小さな渓谷となって森を下っていく。
その沢の岩の間に、少女が倒れていた。
沢に沿って下って行こうとして、滑り落ちたらしい。
半ば水につかり、急な流れが小さな体を今にも押し流しそうだ。
竜は戸惑った。
この巨大な体で狭い沢に近づけば、重さで岩を崩してしまう。
少女が動いた。まだ、生きている。
しかし、身を乗り出すと、片足をかけた岩がぐらりと動き、少女の周りに大きな塊がばらばらと落ちていく。
小さなかけらがいくつか少女にあたり、ひやりとする。
[我には助けられぬ。諦めるしかないか。短い縁だったな]
しかし。
身体が、動こうとしない。
[もう、行かねば。この巨大な体では助けられぬのだ]
・・・この・・・竜の巨大な体では。
額の竜印が、熱を持つ。
若い黒竜は、いまだ他の姿に変化した事がなかった。
この狭い沢に下りられる身体。
少女を助けられる身体。
この子を、助けるには・・・。
・・・人間に・・・変ずるしかないのか・・・。
額が熱く、激しく脈打った。
竜印が、白い光を放つ。




