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竜王と黄金のハート 番外   作者: 葉月秋子


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 岩棚の小さな窪みに、少女は居座ってしまった。

 そこが彼女の以前からの巣なのだろう、人間の道具や寝床が置いてあるようだ。

 竜が寝心地の良いように身体を横たえると、頭がちょうど窪みのそばに来る。

[なるほど。黄金竜とこうして暮らしていたのか]


 黄金竜は前の活動期に、人間の雌に竜珠を与え、交わったという。

 その何代目かの子孫になるわけだ。

 竜珠を受けた種族は、その能力を最大に引き出した強い子孫を残すものだが、それがこの人間とは。

 なんとちっぽけでみすぼらしい、哀れな種だ。


 こんなものに竜珠を与えた黄金竜は、何を考えていたのだろう。




 傷の痛みと失血にぼんやりとしていた竜は、ふと、気が付いた。

 気持ちの良い音がしている。

 

 人間が口で音を出しているのだ。

 小さな木片に糸を張ったものを弾いて、低く調子を取りながら。

 ゆったりと流れるような、高低。繰り返す同じリズム。

 小鳥の、囀りのような。


『歌』

 

 これが、歌というものか。

 やめさせようとも思ったが、傷で熱をもった身体はだるく、頭を上げるのも面倒だ。


 うとうとしながら、柔らかなせせらぎのような歌の流れに身を任せる。





 娘が傍にいるのに竜は慣れてしまった。


 飛ぶ事の出来ぬ退屈しのぎに、小鳥のようなたわいない囀りを聞くともなく耳に入れている。


「人間を襲わないで」といつも頼まれるのは煩わしいが、うたた寝をしながら少女の柔らかな歌声に耳を傾けるのは、気持ちが良かった。


 だが傷の痛みに苛立ち、機嫌の悪い時は、人間の声が癇に障る。

 追い払うために立ち上がるのも、おっくうだ。


 竜はふっと息を吹きかける。

 突然の突風に、少女は細々した道具と一緒に窪みの奥まで吹き飛ばされ、悲鳴をあげる。

 小さな拳を振り上げて怒る姿は結構面白く、竜は喉の奥深くで笑う。


 時々ねぐらから消えるのは、狩りに行くのだろうか。

 何度か他の人間の臭いのする荷物を持って帰るので、仲間に餌をもらっているらしい。




 季節が過ぎる。


 傷はほとんど癒えた竜だが、まだ飛ぶ事が出来ないでいる。

 竜の機嫌が悪い日が続いた。


 そろそろ飢えてきているのだ。

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