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その日。
ロードリアスの王城を揺るがして、巨大な竜が飛翔した。
黒と金の巨大な二頭の竜が、王城の北の岩山を越え、人跡未踏の西の大森林地帯へ向かって飛んでいく。直後、激しい嵐が王都を揺さぶった。
そして数日後、置手紙を残した少女は、曽-----祖父の子飼いの騎士数人に囲まれて密かに城を後にし、北の岩山へ登って行ったのだった。
岩山の頂上近くに、竜体となった黄金竜が住処にしていた岩窟がある。
子孫たちが訪れる時のために、足がかりは造ってあるが、女の足には結構きつい。
「あなたたちはここまで。この先は、私一人でまいります」
森が尽きるところで騎士たちと別れた少女は、数日分の食料とわずかな野営の道具を背負い、ただ一人、山道を登って行った。
北の山脈の連なりから一つだけ離れて、森の上にそそり立つ岩山。
その山頂近くにある大きな岩窟の前は巨大な竜でもゆったりと着陸できる、広く平らな岩棚になって、船の舳先のように突き出している。
眼下には、小さな城の周囲にこちゃこちゃ建て混んでいる人間の町。
その南は大海原のような豊かな平原。彼方を移動するギャラクの群れ。
東に目をやれば、黒々と続く、人跡未踏の原始林。遠く重なり、霞む山々。
風の当たらぬ岩陰に、崖から湧き出す清水が羊歯と苔を育み、滴る水は澄んだ池となって空と雲を映している。
ちょろちよろと流れ出す小川は周囲の水を集め、森を潤し、渓谷となって、大河シスの源流の一つとなるのだ。
「なわばりすべてを見晴かすことのできる、絶好の住処じゃよ」
曾々----ー孫の幼い姫を前足で囲って、一緒に日向ぼっこをしながら、黄金竜は自慢したものだった。
その岩場が、荒れている。
大きな岩がいくつも転がり、崖の一部が崩れている。
岩窟と池を結ぶ、何かを引きずったような汚れた跡。
[あれは・・・血痕?]
ぞっとして身を震わせると、少女はまた少し離れた岩陰に戻り、待った。
ただ、静かに、待ち続けた。
しばらくたって。
岩窟の奥で、動く気配。
深く響く、うなり声。
何かが、巨大なものが、ゆっくりと姿を現す。
巨大な黒竜。
黄金竜と同じほどの大きさがあろうか。
雷雲のような、艶消しの黒。
岩窟から出て池に近づいてくる竜を見つめて、再び少女は身震いした。
黒い体の、凄まじい傷。
肩から胸へ、ざっくりと割れ、はじけた肉が赤くのぞく傷口。
傷のあるほうの左の翼は力なく開いて垂れ下がり、閉じることが出来ずに引きずっている。
『しばらくは飛ぶことも出来ず、岩窟に留まるようにしてやる』
黄金竜の言葉どおり、これでは動くこともままならないだろう。
『おじい様、おじい様は強いもの」
誰より強く、美しく、優しかった黄金竜。
少女は彼のために、最後に激しく泣いた。
涙を拭い、心を決める。
長い時間をかけて池の水で喉を潤した黒竜は、苦しそうに岩窟に姿を消した。
『今度は、私の番』
少女は頭を高く上げ、竜の後を追った。




