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追加の荷物の中に入っていた砂糖衣のかかったクッキーの甘さに驚き、燻製肉の匂いに鼻をしかめ、少女がたき火であぶったマシュマロを分け合って食べ。
陽が沈み、岩棚の端に座って、眼下のロードリアスの街に灯が入るのを眺めながら、竜は考え込んだ。
隣に座る少女の顔に、その頬の傷跡に、眼をやる。
「人間は傷の有無で美醜を決めるのか?」
竜は不思議そうに聞いた。
では、私はこの交尾前の若い雌の地位を、酷く下げてしまったのだろうか?
「私はおまえにひどいことをしてしまったのだな」
少女は笑って竜に近づく。
「いいえ、あなたはそれ以上にすばらしいものを私に下さったの」
竜の首に手を回し、優しく口づけする。
「この姿になったあなたを、私に下さったのだわ」
竜は少女の顎に手を触れ、その眼をのぞき込んだ。
「私の名は、シルヴァーンという」
突然に。竜が名乗った。
「それは・・・」
少女が答える前に、しなやかな指がそっと少女の唇に当てられる。
「そなたの名を受けるわけにはゆかぬ。
だが、この名はそなたに預けよう」
竜が。
自身の名を名乗る。
それがどれほど大事なことか。
黄金竜の子孫である少女は理解していた。
それは相手を同等の立場と認める事。
竜はその名を与えた相手を、決して裏切らない。
戦い、殺し、喰うことさえもあるかも知れぬが、裏切ることは決して無い。
「だからお前も、竜に対して決して嘘をついてはならない。忘れるのではないぞ」
懐かしい黄金竜の言葉が甦る。
「シルヴァーン」
少女はそっと繰り返す。
約束も、目的も、少女の頭から消えていった。
在るのはただ、ここに居たいと、この人の姿になった竜、この美しい男性のそばに居たいと、願う心ばかり。
人間など、どうなろうとかまわぬ。
竜は思う。
しかし、この少女だけは。




