竜王と少女の物語
最後まで連続投稿します。
本編中で語られる、三百年前の竜王と少女の出会い。
ファーストコンタクトものとして独立した中編となっています。
竜王と少女の物語
1
ロードリアスの正門広場に向かう大階段を、少女が駆け下りてくる。
上階の窓から、堀にかかる跳ね橋を渡ってくる、懐かしい人の姿が見えたのだ。
白髪と白髭を風にそよがせ、黄金に輝く鎧をまとった偉丈夫。
「おじい様!」
頬を上気させて、大きく広げた腕に飛び込んだ。
「久しいのう。元気にしておったか?」
「はい!」
六尺を超す長身の祖父は、少女を軽々と腕に抱いて微笑む。
「やっと、約束したものを見つけてきてやったぞ」
少女ははっと息を呑む。
その眼がみるみる涙で潤む。
逞しい首にぎゅっと抱きつき、泣き顔を隠した。
『・・・お別れするのは嫌です・・・』
小さな心が、そっとささやいた。
ロードリアスの国は竜王の庇護下にあり、襲い来る魔獣から守られている。
百年ごとに活動期と休眠期を繰り返す、巨大な魔獣たち。
その頂点に立つ、竜。
二百五十年以上も昔、ロードリアスの姫と恋に落ちた黄金の竜王は人化して姫を娶り、子を成した。
そして長きにわたって、時に竜体となり、時に人間となって、その子孫たちの治める国を、ずっと見守ってきたのだ。
御年十三歳になるこの少女は、心話の能力が飛びぬけて高く、子孫たちの中でも一番の気に入りの、現国王の長女。
まとわりついて話をねだる、曾々-----孫に、にこにこしながら昔話をしてやる老戦士の姿は城で見慣れた光景であった。
そして、黄金竜は、彼女だけに打ち明けたのだ。
自分は、すでに盛りを過ぎた。
次の活動期には、ロードリアスを他の竜から守り切れないであろう、と。
そして、二人は、計画を立てた。
「素晴らしい竜を見つけてやったぞ。
血統の良い美しい大きな雄だ。
何より若く、頭が柔軟なところがいい。
きっとお前も気に入るだろう」
「おじい様」
少女は大きな体に抱きつき、涙をためた眼で見上げる。
ロードリアスの黄金竜は少女を抱き上げ、心から楽しそうに不敵に笑った。
「わくわくするわい。
最後にあんな奴と戦えるとはな。
待ち遠しくてたまらぬわ。
あの若造を足腰も立たぬほどぶちのめしてやるからな。
しばらくは飛ぶこともならずに岩窟で唸っているだろう。
そのあとは、お前次第だ。
お前が恐れずに心からの信頼を寄せれば、あやつもきっと心を開いてくれる。
我々竜は決して裏切らない。嘘をつかない。
それを忘れるな」
戦いの予感に陽気になって、にこにこしている祖父を、少女はどうしようもないといった顔で見つめる。
どうして竜って、こんなに喧嘩が好きなんだろう。
今度は命がけの喧嘩なのに。
もう、戻って来てはくれないのだ。
黄金竜の祖父は、少女を抱きしめる。
「これが一番いいのだ。
私のかわいい子。
お前はどんな人間よりも毅〈つよ〉い、私の自慢の娘だ。
お前の婿を選ぶようで楽しかったぞ。
あいつは強く、大きく、美しい。
私の眼に狂いはない。
あいつなら、この先長くロードリアスを守っていける。
そして今度はおまえが、あいつの心を捉えるのだ」




