少年ロウェルと広い世界(5)狙い
リューグナーの指差した方にいる商人は三人いた。
「どの人が盗んだの?」
「それはだな…」
リューグナーは三人の商人を見ながら考える。
(この三人のうち、どいつの宝石が高く売れるか…、そして俺の考える作戦が成功できるか)
三人のうち、リューグナー達に近い手前の一人は体に良い脂肪が乗っていた。顔は優しそうでおっとりしている。売っているのは芋や人参、リンゴなどの野菜や果物が主で、それとは別に宝石が散りばめられたネックレスやブレスレットなども少し置かれていた。真ん中の男は痩せていて顔色が悪い、売っているものは魚を乾燥させた物や木の実、それから飾りとしておいてるのだろうアメジストの大結晶があった。おそらく、ピータウンの町長からもらったのだろう。奥にいる商人は歳のいった老人で、渋い顔をしていた。売ってるものは小皿や、ゴブレット、さらには短剣や歯でできた装飾品などの品物で、客も手前二人の商品は見ていたもののその老人の前は避けていた。
「うん…あいつだ、一番手前の太った男、あいつの売ってるネックレスさ」
(爺さんは危険な香りで宝石も売ってない、顔色悪いあいつは、下手したらこのガキを殺しかねない気がする。それだとダメだ、普通に考えたらこいつだろうな…)
ロウェルは品物を見に来た客の相手を笑顔でしている太った商人を確認する。
「取り返さないの?」
「あぁ、取り返しに行きたいがダメなんだ。何せここはソル大陸西方の荒地の町、ピータウンだ。農産物をほぼ作ることができないこの場所で商人達ってのは神様みたいなもんだ。そんな神みたいなやつと、この町でそいつらからの恵みものをもらって生きる俺たちとじゃ、町長や衛兵はどっちを選ぶかなんか決まってる」
「ふーん、でもおじさんのものなんだよね」
「あぁ…」
ロウェルは商人を見ながら黙っていた。リューグナーも黙ってロウェルが何を口にするかを待っていた。
「…ばれないように取るしかないのかな」
「何?」
「おじさんは寝てる時に取られたんでしょ?なら今度は僕たちがすれば良いんじゃないかな」
リューグナーは聞き逃さなかった。
(その言葉を待っていた!)
「僕たちってお前…まさか手伝ってくれるのか?」
「うん、おじさんは良い人だからね」
その言葉にリューグナーは胸を針で刺されたような感覚になった。
「取り返せたら僕は行くよ。母さんに読んでもらった本で、何かを起こした時はすぐにその場所を離れ関わらないことだってね」
ロウェルの言葉にリューグナーは笑った。
「なんだその本、絶対悪い本だぞ」
リューグナーにつられてロウェルも小さく笑った。
「じゃあ、作戦を考えようか」